AI時代にも人材育成は必要だが、「新人に簡単な仕事を大量にやらせ、年月をかけて経験者にする」という従来型育成モデルはかなり作り直さなければならない。
そして企業が「経験者だけ採ればいい」と考え始めると、個々の会社には合理的でも、業界全体では経験者を作る会社がなくなるという巨大なフリーライダー問題が起こる。
と考えます。
- そもそも会社は「人材を使う場所」であると同時に「人材を作る場所」だった
- しかしAIは、その「育成ラインの入口」にある仕事を奪いやすい
- 「簡単な仕事」は無駄だったのではなく、教材だった
- これは学校で「練習問題」をAIに全部解かせるのと似ている
- そして新人採用が減っている兆候は、すでに出始めている
- しかし、ここで恐ろしい問いが出てくる
- しかし全社がB社戦略を取った瞬間に崩壊する
- 以前考察した「管理職不足」は、この問題の10年後の姿
- そして最も皮肉なのが「AIを監督する人」まで育たなくなること
- 経験がない人は「AIの答えが変だ」と気づきにくい
- 「AIで育成が不要」どころか逆になる
- しかし、昔と同じ育て方はできない
- だから「仕事を残す」のではなく「修業方法を作り直す」
- 新人に「AIの答えを疑わせる」
- つまり「新人」の定義そのものが変わる
- しかし、この対策にも問題がある
- 「新しい1階」は人工的に作る必要があるかもしれない
- AIは人材育成を壊すだけではなく、逆に強力な教師にもなれる
- ではAIに全部育ててもらえばいい?
- 「年次評価の記事」との関連
- ところが管理職不足で、その「誰か」がいない
- しかもAI評価制度によって新人教育が損になる可能性もある
- 人材育成は「善意」でやらせてはいけない
- 「人材育成担当」は独立した重要職になるかもしれない
- これは学校教育との境界も変える
- 「経験者しか採らない」問題への社会的な答えも必要になる
- だから一部は「社会インフラ」として育成を考えた方がいい
- ただし「企業へ育成補助金をばらまけばいい」でもない
- 最も強い企業は「他社の経験者を奪う企業」ではなく、「経験者を高速生産できる企業」になるかもしれない
- これは製造業でいう「内製化」に近い
- 記事解剖室の「AIリストラ競争」と正反対の長期戦略
- 「会社と長期的な関係を結ぶことは合理的か?」にもつながる
- ただし、育てるほど転職されやすくなるという逆説
- だから「囲い込む」のではなく「残りたくなる会社」にする必要がある
- ここで企業の人材戦略は二極化するかもしれない
- おそらく完全にA・Bには分かれない
- AI時代だからこそ「何を社内で育てるべきか」を決めなければならない
- AI自体が「教育担当」を一部担う
- AIだけから学んだ人間を、AI監督者にはしてはいけない
- 未来の新人教育の核心は「答えを出す能力」より「答えを疑う能力」
- 人材育成は以前より重要になる
- 記事解剖室としての結論
そもそも会社は「人材を使う場所」であると同時に「人材を作る場所」だった
これは意外に見落とされます。
企業は普通、人を雇って仕事をさせる場所と考えられています。
しかし同時に、未経験者を経験者へ変換する装置でもあります。
例えば、
22歳の新人→25歳の若手→30歳の中堅→35歳のリーダー→40歳の管理職
という流れです。
22歳時点ではできなかった、
- 顧客対応
- 判断
- トラブル処理
- 後輩教育
- 部門間調整
- 責任ある意思決定
が、実務経験を重ねることでできるようになります。
だから新人採用とは、今の労働力を買う行為だけではありません。
10年後の経験者を自社で製造する投資でもあります。
しかしAIは、その「育成ラインの入口」にある仕事を奪いやすい
McKinseyが2026年7月に公表した人材育成論でも、これまで新人は、調査、資料作成、データ整理、基本的なコード、一次分析などの低リスクな仕事をしながら、経験者の判断を間近で見て専門性を身につけてきたと整理しています。
ところが、まさにそうした作業を生成AIが吸収し始めています。
昔なら、新人を資料をまとめるよう指示し、それを間違える。
先輩からどこがおかしいか指摘してもらい、修正。
これを何度も何度も経験し、「なんとなくここがおかしい」という具合に分かるようになる。
以前は、こんな感じでステップを踏めたのです。
ところが、
今はAIがあるために、新人は『へいAI、ちょっと資料をまとめて』という感じでAIを使って作ってしまいます。
生産性は大幅に上がるでしょうが、新人のどこに経験値が入ったのかという問題が残ります。
「簡単な仕事」は無駄だったのではなく、教材だった
これはかなり重要だと思います。
会社から見ると新人が一日かけて作る資料を、AIが10分で作る。
なら、新人を雇う必要ないでしょう、となります。
短期的にはその通りです。
しかし新人が一日かけて資料を作っていた時間には、
- 情報の探し方
- 数字の違和感
- 業界知識
- 会社独自の事情
- 文章構成
- 上司の判断基準
などを学ぶ意味もありました。
つまり会社は、
「生産性の低い作業」
だと思っていたものをAIへ渡した結果、
実はその作業に埋め込まれていた教育機能まで捨てる
可能性があります。
以前『AIは仕事を楽にするのか、それとも「楽な仕事」だけ奪うのか?』という記事を書きましたが、こういう意味で楽な仕事だけ奪われると、新人が育たないどころか根絶やしにされてしまいかねません(-_-;)

これは学校で「練習問題」をAIに全部解かせるのと似ている
例えば数学で、ある問題を解く必要があるとします。そこでAIを使えば、
AI:答えは42です。
生徒:分かりました。
こんな具合でササっと片付けてしまうでしょう。
生産性だけ見れば猛烈に高い。
しかし試験で、
自分で解いてください。
となったらどうでしょう?
AIに解いて貰っていたんですから出来る訳がありません。
仕事も同じです。
本当の目的が、資料を完成させるだけならAIでいいでしょう。
しかし、資料を作れる人間を育てることまで目的だったなら、完成品だけ得ても不十分です。
そして新人採用が減っている兆候は、すでに出始めている
米国勢調査局の2026年4月のワーキングペーパーでは、ChatGPT登場後、AIへの曝露度が最も高い業界・州の22~24歳層で採用が明確に減少し、調整後の若手雇用は10四半期で約12%低下したと報告されています。
ただしCOVID期からのトレンド等他要因もあり、AIだけを唯一の原因と断定するには注意が必要です。
ソフトウェア開発でも、2026年のIZA研究では、ChatGPT後にジュニア求人がシニア求人に対して14~15%相対的に減り、同じ職種名でも要求経験年数が上昇していました。
つまり企業が、
「AIがあるなら、経験の浅い人を雇うより経験者+AIの方がいい」
と考える兆候は、少なくとも一部の職種では観測され始めています。
しかし、ここで恐ろしい問いが出てくる
企業A:新人はいらない。経験者を採ろう。
企業B:ウチも経験者。
企業C:ウチも。
企業D:ウチも。
では、その経験者はどこから来るのでしょう?
誰かが、未経験者から経験者へ育てなければ存在しません。
「人材育成のフリーライダー問題」
会社A:新人100人採用。
教育費を負担、5年掛けて育成、そのうち20人が転職。
会社B:新人教育なし→A社で育った5年経験者を採用。
となれば、B社はかなり得です。
A社:教育費を負担。
B社:完成品だけ買う。
企業単体で見るなら、他社に育成させて経験者だけ採る方が効率的になる場合があります。
しかし全社がB社戦略を取った瞬間に崩壊する
A社も、うちも育成やめよう、となる。
すると、新人採用減少→若手減少→5年後の中堅不足→10年後の管理職不足→経験者の価格高騰となります。
要するに、企業が育成コストを節約した結果、将来の経験者の市場価格を自分たちで引き上げることになります。
これはかなり皮肉です。
以前考察した「管理職不足」は、この問題の10年後の姿
記事解剖室の「AIを用いることで新人を採らない会社は、10年後に誰を管理職にするのか?」では、
新人採用減少→中堅減少→管理職候補減少→AI管理職→という流れを考えました。
今回の視点を加えると、さらに深くなります。
問題は、管理職だけ不足するのではありません。
- ベテラン技術者
- 熟練営業
- プロジェクト責任者
- 教育担当
- AI監督者
など、長い経験によってしか作れない人材全体が不足する可能性があります。
そして最も皮肉なのが「AIを監督する人」まで育たなくなること
以前のAI上司の記事では、
AI:日常管理
人間:例外判断・責任・AI監督。
という分業が現実的だと考えました。

ではその、AIがおかしな判断をしたときに「これは違う」と言える人間はどうやって育つのでしょう。
現場経験5年、管理経験5年、失敗経験、トラブル経験、判断経験が必要かもしれません。
つまりAIを安全に使うためにも、人間を育て続ける必要があるここがかなり重要です。
経験がない人は「AIの答えが変だ」と気づきにくい
例えば熟練技術者。
AI:この設備なら運転継続可能です。
熟練者:「いや、この振動音は止めた方がいい」
と判断が分かれるかもしれません。
しかし、新人であれば……
新人:AIが大丈夫と言っているので大丈夫でしょう。
となるかもしれません。
つまりAI時代ほど、正解を作る能力以上に、AIの正解らしい間違いを見抜く能力が重要になります。
しかしそれは、経験者に多く蓄積されています。
「AIで育成が不要」どころか逆になる
人間が仕事をするには、経験が必要になってきます。
しかし、AIが登場してからはAIが仕事をする→人間はAIを監督→より高い判断能力が必要となる場合があります。
つまり、AIがあるから新人教育を減らすのではなく、AIがあるからこそ、新人をより高度な判断者へ育てなければならない可能性があります。
しかし、昔と同じ育て方はできない
ここは重要です。
だから、昔の新人仕事を守りましょう、だけでは解決になりません。
AIで10分でできる作業を、教育のため新人に一日やらせるでは会社の競争力が落ちます。
前の記事で考察したように、競合がAIで80人で済む仕事を、自社だけ100人でやることには大きなリスクがあります。
企業は教育機関ではありません、採算も必要です。
だから「仕事を残す」のではなく「修業方法を作り直す」
ここが答えの一つだと思います。
従来:新人が一から資料作成→先輩が添削
AI時代:AIが原案→新人が、
- 出典確認
- 誤り発見
- 前提確認
- 改善
- 顧客への説明
を担当する。つまり、作業による修業から、検証・判断による修業へ移します。
新人に「AIの答えを疑わせる」
例えば、
AI:この市場は10%成長します。
新人:分かりました。
ではなく、「なぜ10%なの?」「根拠は?」「反対シナリオは?」「どんな条件なら外れる?」を考えさせる。
これならAIによる生産性と、人間育成を両立できます。
世界経済フォーラムも2026年の報告で、エントリーレベル職を単純に消すのではなく、仕事の設計、育成パイプライン、教育との接続そのものを再設計する必要があるとしています。
つまり「新人」の定義そのものが変わる
昔:簡単な作業をする人。
未来:AIを使いながら判断力を訓練する人。
となるかもしれません。
ソフトウェア分野の2026年研究でも、残ったジュニア求人は単純なAIスキルそのものより、問題解決、コミュニケーション、注意力などを以前より重視する方向へ変化していました。
つまり、新人がなのではなく、新人に要求される最初のレベルが上がるとも言えます。
しかし、この対策にも問題がある
新人:経験ゼロ。
会社:AIが簡単な仕事をするから、あなたは最初から判断してください。
新人:何を根拠に?
……こうなってもしょうがないですよね(-_-;)
これは、キャリアの1階と2階をAIで撤去して、3階から登れと言っているようなもの。
だから、AI時代用の新しい1階を作らなければなりません。
はてさて、どうしたものか。
「新しい1階」は人工的に作る必要があるかもしれない
例えば、こんなのはどうでしょう。
シミュレーション
過去のトラブルを新人へ提示。
あなたならどうする?
AIが顧客役、AIが部下役、AIがトラブルを再現。
新人が判断する。
AIレビュー訓練
AIの回答に意図的な間違いを混ぜる。
新人:間違いを探す。
シャドーイング
経験者の会議や意思決定へ新人を同席させる。
結果だけでなく、なぜそう判断したかを説明する。
小さな責任
AIで安全網を作りながら、新人にも本当の案件を任せる。
このような、人工的な経験設計が必要になるでしょう。
AIは人材育成を壊すだけではなく、逆に強力な教師にもなれる
ここは悲観だけではありません。
AIなら新人一人につき、24時間質問できる家庭教師を付けられます。
新人:なぜこれはダメなの?
AI:過去事例では……
と説明できる。
さらに、
- 練習問題生成
- ケーススタディ
- ロールプレイ
- 個別学習
- 即時フィードバック
ができます。
McKinseyも、AI時代の専門性育成について、知識管理、役割設計、学習、コーチングを一つのシステムとして考える必要を指摘しています。
つまり、AIが新人を減らす未来と、AIが新人をこれまでより速く育てる未来の両方があります。
ではAIに全部育ててもらえばいい?
ところが、それだけでも足りません。
AI:この場合はA案です。
新人:なぜ?
AI:理由は……
これだけでは、現実の人間関係を完全には学べません。
例えば、部下が泣いている、顧客が怒っている、部署間の政治問題、言葉には出ない反発。
そうした経験は、実際の人間組織の中でしか学びにくい。
だから、AI教師+人間の現場経験の組み合わせになるでしょう。
「年次評価の記事」との関連
前回のBusiness Insider記事の考察では、
人は点数を付けられて育つわけではない。
日常的な支援とフィードバックが必要。
という話になりました。
記事解剖室では、
日常:支援
四半期:軌道修正
半年:査定
年間:キャリア
と分ける案まで考えています。
つまり育成には、誰かが新人に注意を向け続ける必要があります。
AIだけ導入して、勝手に育ってください、ではさすがに難しい(-_-;)
ところが管理職不足で、その「誰か」がいない
ここがものすごく厄介です。
新人育成には管理職・先輩が必要。
しかし、管理職になりたい人減少→管理職不足→管理職一人あたり部下増加→新人育成時間減少→新人が育たない→将来の管理職不足。
という循環があります。

AIで新人を減らす話とは別ルートから、育成力そのものが弱っているわけです。
しかもAI評価制度によって新人教育が損になる可能性もある
直近の「AIを攻略する社員」の考察では、
社員A:自分の仕事100。
社員B:自分の仕事80+新人教育。
AIが個人成果だけ見れば、A>B となる問題を考えました。

AI上司の記事でも、測定しやすい個人成果だけを評価すると、新人教育のような周囲への貢献が過小評価される危険を取り上げています。
すると先輩社員は、新人を育てると自分の評価が下がると学習する。
誰も育てなくなる悪循環の完成ort

人材育成は「善意」でやらせてはいけない
会社:ベテランは新人を面倒見てください。
ベテラン:分かりました。
新人教育2時間→自分の成果減少→評価低下
これでは続きません。
なら、人を育てること自体を仕事として認める必要があります。
例えば、
- 評価
- 報酬
- 昇進
- 業務時間
へ正式に組み込む。
「空いた時間で教えて」ではなく、週5時間は育成業務とする。
「人材育成担当」は独立した重要職になるかもしれない
昔は、
上司:自分の仕事+部下育成。
でした。
しかしAI時代には、専門的な人材育成職が重要になる可能性があります。
例えば、Talent Coach Apprenticeship Manager AI Learning Designerのような役割です。
仕事内容は、
新人一人ひとりについて、
- 何をAIへ任せるか
- 何を本人にやらせるか
- どんな失敗を経験させるか
- 何を習得したか
を設計する。
これは学校教育との境界も変える
会社:新人教育はコストが高い。
大学:実務教育まではできない。
新人:経験がないから採られない。
という三すくみになる可能性があります。
すると、
企業、大学、職業訓練、オンライン教育、AI教育の境界を作り直す必要があります。
WEFの2026年報告でも、「企業の職務設計」だけでなく「教育システムとの整合」を早期キャリア経路の重要要素として挙げています。
「経験者しか採らない」問題への社会的な答えも必要になる
これは企業単体だけでは解決しにくいと思います。
なぜなら、
A社:育成投資。
B社:引き抜き。
が起こるからです。
A社からすれば、「うちが金を掛けて育てても他社に取られる」となる。
すると育成投資が減ります。
だから一部は「社会インフラ」として育成を考えた方がいい
例えば、
- 企業間共同訓練
- 業界共通の資格
- 公的職業訓練
- 企業と大学の共同プログラム
- 見習い制度
- 育成企業への税制支援
などです。
要するに、人材育成の利益を社会全体が受け取るなら、費用も企業一社だけに背負わせないという考えです。
ただし「企業へ育成補助金をばらまけばいい」でもない
それをやると、形だけ研修、補助金目的になる可能性があります。
重要なのは研修回数ではなく、実際に未経験者が何年後にどんな能力を得たかを見ることです。
ここでもまた「評価指標攻略」の問題が出てきます。
記事解剖室で何度も出てきた話です。
最も強い企業は「他社の経験者を奪う企業」ではなく、「経験者を高速生産できる企業」になるかもしれない
これはかなり面白い逆転だと思います。
AI普及初期:経験者+AIが最強。
だから経験者争奪。
しかし経験者不足が進む。
すると、
会社A:経験者を高い給料で買う。
会社B:未経験者をAI+優秀な教育制度で3年で育てる。
となる。
長期的には、B社の方が人材供給力そのものを競争優位にできる可能性があります。
これは製造業でいう「内製化」に近い
重要部品を全部外部調達している会社。
供給不足になる→価格高騰
一方、
自社生産能力がある会社→安定供給
人材も同じです。
経験者を市場から買うだけでは、人材市場が枯渇すると詰む。
しかし自社に、新人→経験者への変換能力があれば強い。
記事解剖室の「AIリストラ競争」と正反対の長期戦略
前の記事では、
企業A:100人。
企業B:AIで80人。
なら、A社も削減圧力を受けると考えました。
短期的には当然です。
しかし長期では、
企業A:育成を継続
企業B:育成停止
10年後、
A:中堅・管理職候補がいる。
B:経験者を市場から高値で買う。
となる可能性があります。
AI時代には「誰が一番速く人を減らしたか」だけでなく、「誰が一番効率よく人を育て続けたか」も競争になるのではないでしょうか。
「会社と長期的な関係を結ぶことは合理的か?」にもつながる
社員側から見ると、
会社A:市場価値のある技能を教えてくれる、AIを使える、優秀な先輩がいる、難しい仕事へ段階的に挑戦できる。
となれば、
この会社に5年いる価値がある。
となります。
以前の記事で、
AI時代に良い会社とは「この会社にいるほど自分の価値が上がる会社」ではないか
と考察しています。
人材育成力が、社員を定着させる武器にもなるわけです。

ただし、育てるほど転職されやすくなるという逆説
ここでまた問題です。
会社:AIも教える、管理も教える、専門能力も育てる。
社員:市場価値大幅上昇
他社:年収+200万円で来ませんか?
となりかねません。
会社:……育てたら辞めた。
これは避けられません。
だから「囲い込む」のではなく「残りたくなる会社」にする必要がある
以前の長期関係の記事で出した、
辞められないから残る社員
ではなく、
辞められるのに残る社員
を作れる会社が強い、という話です。
育てた結果、市場価値が上がる。
それでも、給与、仕事、裁量、仲間、成長機会が魅力的だから残る。
これなら人材育成投資も回収できます。
ここで企業の人材戦略は二極化するかもしれない
私は将来的に、二種類の会社が出てくると思います。
A型:人材消費企業
経験者を採り、AIで最大限働かせる、必要なくなったら交換。
育成は最小限で短期利益は強い。
しかし市場で経験者が枯れると弱い。
B型:人材生産企業
新人を採り、AIで効率的に育て、市場価値も上げる。
長期的に経験者を生産する。
育成コストは高いが、人材不足時に強い。
おそらく完全にA・Bには分かれない
現実には、
コア人材:自社育成
汎用人材:外部採用
高度専門家:市場から採る。
新人:一定割合維持
こんな感じの混合型になるでしょう。
これが最も合理的だと思います。
すべて自社育成するのも高コスト、全部市場採用も危険。
人材調達ポートフォリオのような発想です。
AI時代だからこそ「何を社内で育てるべきか」を決めなければならない
例えばそれは、会社独自の技術なのか、あるいは顧客理解なのか、それとも組織文化、はたまた管理能力なのか、もしくは安全判断なのか。
こうしたものは自社育成した方がよい。
一方、一般的なプログラミング、会計、汎用デザインなどは外部調達しやすい。
人材育成も、全員同じ研修ではなく、会社の競争優位に直結する能力を内製化する方向になっていくでしょう。
AI自体が「教育担当」を一部担う
2036年くらいを想像すると、
新人一人→AIメンター一体→人間先輩一人が新人10人を監督。
という形があり得ます。
AI:日常質問、基礎教育、練習、フィードバック。
人間:例外、判断、現場経験、キャリアを担当。
これなら人間の教育負担を下げつつ、育成を維持できます。
AIだけから学んだ人間を、AI監督者にはしてはいけない
これも重要です。
AI:こう判断します。
新人:そうなんですね。
↓
10年後。
AI:こう判断します。
元新人:そうなんですね。
では、AIを監督していません、AIへ従っているだけです。
だから育成では、AIへ反論させることが重要になります。
未来の新人教育の核心は「答えを出す能力」より「答えを疑う能力」
AIが答えを出す。
人間は、前提を見る、欠落を見る、反例を見る、責任を取る。
となります。
記事解剖室は大別すると、今回のようにニュースを深堀していく記事と、最初に記事を考察していくタイプがあります。
そして後者の記事は、
何を主張している?
前提は?
何が書かれていない?
と解剖していくのですが、それと似ているかもしれません。
AI時代の人材教育は、出された答えを鵜呑みにせず解剖できる人を作る方向へかなり寄るのではないでしょうか。
人材育成は以前より重要になる
「AIが賢くなるなら、人間教育は減らしていい」……私の考えは真逆です。
AIが大量に答えを作る社会ほど、どれが正しい? どれを採用する? 誰が責任を取る? こういった事柄を判断できる人が必要です。
つまり、作業者育成は減るが、判断者育成は増えるのではないでしょうか。
記事解剖室としての結論
「AI時代、会社は誰が人材を育てるのか?」
この問いへの私の答えは、
企業自身が育てる責任から完全に逃れることはできない。
むしろAIによって新人の仕事が消えるほど、「仕事をさせながら自然に育つ」従来型育成が成立しなくなるため、人材育成を意図的に設計しなければならなくなる。
です。
AIで新人業務を減らすこと自体は、企業にとって合理的です。
実際、AI曝露度の高い分野で若手採用が弱くなっている兆候や、ジュニア求人の要求経験年数が上昇している研究も出ています。
しかし、
「新人を採らなくても、市場から経験者を買えばいい」
という戦略は、すべての企業が採用することはできません。
なぜなら、誰かが新人を採らなければ、経験者そのものが将来存在しないからです。
これは典型的なフリーライダー問題です。
一社だけなら、他社の育成人材を採るで済むでしょう。
全社がやれば、
人材市場が枯れる。
そして経験者不足、管理職不足、AIを監督できる人間不足へつながります。
だからAI時代の人材競争では、
誰が一番大量に経験者を採れるか
だけではなく、
誰が一番効率よく未経験者を経験者へ変換できるか
が企業能力として重要になるのではないでしょうか。
そして、その育成方法は従来とは変わります。
AIに単純作業を任せる。
その代わり新人には、AIの出力を確認させる、疑わせる、説明させる、小さな判断を任せる、過去の失敗をシミュレーションさせる、経験者の判断過程を見せる。
つまり、仕事を覚えさせる教育から、判断を覚えさせる教育へ変わっていく。
AIはその教育を壊す存在にもなれますが、AIメンター、シミュレーター、個別教師として、従来より安価で高速な育成装置にもなり得ます。
WEFやMcKinseyも、2026年時点ですでに「新人仕事を守るか消すか」ではなく、初期キャリアの職務設計と専門性形成そのものを作り直す必要を論じ始めています。
そして記事解剖室のこれまでの考察を一本につなぐと、
AIで新人仕事を代替する
↓
新人採用を減らす
↓
経験者が減る
↓
管理職が減る
↓
AI上司を導入する
↓
AI上司を監督できる経験者が必要になる
↓
その経験者を育てる新人を10年前に採っていない
という非常に皮肉な循環が見えてきます。
だから、AI時代の会社が最も避けなければならないのは、
「新人を雇うのは非効率だからやめよう」
という判断そのものではなく、
「AIで仕事を代替したのだから、人間を育てる仕組みまで必要なくなった」と勘違いすること
なのだと思います。
最終的には、人材育成を単なる「教育費」ではなく、将来の経験者・管理職・AI監督者を生産するための設備投資として考えられる会社が強くなるのではないでしょうか。
AI時代の人材育成は、教育方法だけの問題ではありません。
新人採用、管理職の役割、評価制度、雇用のあり方まで含めて考える必要があります。
その全体像については、「AI時代の働き方はどう変わる?」で整理しています。



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