リモートワークは孤独を生む?メンタルヘルスへの影響と「出社すれば解決」の落とし穴

記事解剖

本日、ヤフーのトップページで興味深いニュースがありました。

ひとりで黙々とこなすリモートワーク、メンタルヘルスに悪影響の可能性 新研究(CNN.co.jp) – Yahoo!ニュース
リモートで働き、多くの時間を1人で過ごしているなら、わずかな交流でも大きな効果が期待できる。バリスタと会話したり、知らない人に笑顔を向けたりするといった小さなやりとりでも、人は帰属意識を得られる

リモートワークがメンタルヘルスに悪影響を与える可能性がある、という記事。

CNNに元記事があったので、そちらへのリンクも貼っておきます。

ひとりで黙々とこなすリモートワーク、メンタルヘルスに悪影響の可能性 新研究
1人で働く時間が長すぎると、メンタルヘルスに悪影響を及ぼしかねないことが新たな研究で示唆されている。企業は相次いで職場回帰を義務付けているが、重要なのは働く場所にかかわらず、1日の中に有意義な社会的交流を取り入れることだと専門家は指摘する。…

いやいや、正直盲点でした(-_-;)

リモートワークになれば通勤時間がなくなりますし、集中しやすい、自身のライフスタイルに合わせて働ける……こういった利点から、現在でもリモートワークを希望する社員は少なくないので、会社側のデメリットはあれども、社員のデメリットは少ないのではないか、と私は考えていましたから(教育の面でデメリットはあると考察したことはありますが)

しかし、その裏側に別のコストが存在する可能性が示されました。

一人暮らしで、リモートワークが可能な仕事に就く人ほど、社会的な接触のない日が増え、精神的な苦痛も大きくなる――。

Scienceに2026年6月に掲載された研究では、2011~2024年に実施された5種類の全米調査、約58万8000人分のデータが分析されています。

その結果、リモート勤務が増えた職種では、

  • 一人で過ごす時間が増える
  • 一日まったく他人と接触しない日が増える
  • 精神的苦痛が増える
  • メンタルヘルス関連の医療利用や処方が増える

傾向が確認されました。

特に影響が大きかったのが、一人暮らしの人です。

研究者らは、パンデミック後に増えた孤立や心理的苦痛のおよそ3分の1について、リモートワークの増加によって説明できる可能性があると推計しています。

ここだけ読むと、

やはりリモートワークは良くない。社員を会社へ戻すべきだ。

という話に見えます。

しかし、今回の記事はそこで終わっていません。

むしろ、オフィスへ行くことと、人間との有意義なつながりを持つことは同じではないと指摘しています。

ここが今回の記事で最も重要なところではないでしょうか。


記事は何を主張しているか

表面的な主張は、

長時間一人で働く環境は、とくに一人暮らしの人にとって、社会的孤立やメンタルヘルス悪化のリスクになり得る。

というものです。

元研究では、リモート可能職に就いている人について、パンデミック後に一人で過ごす時間が増え、仕事以外での交流によってその分を十分に補っていないことが確認されています。

特に独居者では、一日まったく他人と接触しない確率が大きく増えました。

しかし記事の結論は、

だから週5日会社へ戻せ。

ではありません。

むしろ、問題は「どこで働くか」より、「日常の中に人との有意義な接触が存在するか」であるという方向です。

つまり記事は、

リモート勤務=孤独

出社勤務=社会的交流

という単純な二分法を否定しています。

オフィスへ行っても、誰とも話さない、人間関係が悪い。

一日中Teamsとメールだけ、昼食も一人。

こんな状況であれば、物理的には人に囲まれていても社会的には孤立しているかもしれません。

逆に自宅勤務でも、家族や友人と交流する、コワーキングスペースを利用する、近所の店へ行く、地域活動へ参加する。

こういう生活なら、孤立は小さいかもしれません。

したがって今回の記事の本質は、

リモートワーク問題を「場所の問題」から「社会的接触の設計問題」へ置き換えること

にあります。


筆者は誰に向けて書いているか

大きく三種類の読者が想定されます。

第一は、リモートワーカー本人

特に、一人暮らし+フルリモートの人でしょう。

本人は、通勤しなくていい、一人の方が集中できる、と感じていても、長期間ほとんど人に会わない生活が心理的な負担として蓄積する可能性があります。

この読者には、働き方だけでなく、生活全体の社会的接触を考えてください、と伝えているはずです。


第二は、企業経営者・人事担当者

ここはかなり重要です。

最近の出社回帰では、人間関係のため、チームワークのため、孤独を防ぐため。

こういった理由が使われることがあります。

今回の研究は一見すると、そうした完全出社派にとって都合の良い材料です。

しかし記事は、オフィスへ戻せば孤立が解消するとは限らないと釘を刺しています。

つまり経営側へは、「社会的交流が重要」という研究を「だから全員出社」という政策へ短絡させるなというメッセージでもあります。


第三は、出社かリモートかという論争そのものを見ている人

私のような人間ですね(-_-;)

ここ数年、出社派、リモート派の対立が続いています。

しかし今回の記事は、その問いそのものをずらしています。

重要なのは、出社かリモートかではなく、その働き方によって、人は孤立していないかです。

この問いへの変更はかなり重要でしょう。


読者に何をさせたいか

リモートワーカー本人には、意図的に社会的交流を生活へ組み込んでくださいという行動を求めています。

それも、毎日友人と食事をする、大きなイベントへ参加する、といった大げさなものだけではありません。

店員と話す、近所を歩く、誰かと少し会話する、コーヒーショップで仕事をする。

こうした小さな接触でもよい。

つまり、社会的接触を偶然に任せないということです。

これはフルリモート環境では重要でしょう。

会社員時代なら、出勤する、受付で挨拶する、同僚と話す、昼食を食べる、帰りに店へ寄る。

こういう形で、本人が意識しなくても一日に何度も他者と接触します。

しかし在宅勤務では、

自宅→パソコン→自宅

これだけで一日が完結できます。

効率的ですが、効率化によって消えたものの中に、人間関係まで含まれている可能性があります。


企業側には、社員を会社へ呼び戻すだけではなく、意味のある交流をどう作るか考えてくださいという要求になります。

例えば、メンター制度、少人数の交流、相談しやすい上司、一緒に作業する時間、社員が参加したくなるイベント。

こうしたものです。

ここで重要なのは、「人を同じ建物へ集めること」と「人間関係を作ること」は別だという点です。


どんな前提を置いているか

ここは少し慎重に見る必要があります。

前提1.リモートワークが孤立を増やしている

研究結果はこの方向を支持しています。

約58万8000人という非常に大きなデータを使い、リモート可能職とリモート不可能職のパンデミック前後の変化を比較しています。

結果として、リモート可能職で孤立と精神的苦痛がより大きく増えています。

しかし重要な注意点があります。

この研究は、

この人は週5日リモート勤務。

この人は週2日。

という実際の勤務日数を一人ひとり直接追跡したわけではありません。

「リモート可能職」と「リモート不可能職」を比較しています。

そのため、リモート勤務を1日増やすと精神状態がこれだけ悪化するというほど直接的な因果関係を示しているわけではありません。

この点は記事でも慎重に扱われています。


前提2.人間は一定量の社会的接触を必要とする

これはかなり強い前提です。

ただし、何時間必要なのか、何人必要なのか、対面でなければいけないのかは、人によって違うでしょう。

外向的な人と内向的な人でも違います。

家族と暮らしている人、一人暮らしの人、地域コミュニティがある人、友人が近所にいる人。

事情は大きく違います。

だから、「リモートワークは悪い」という全員一律の結論にはできません。

元研究でも悪影響は特に独居者へ集中していました。


前提3.職場は社会的接触を提供している

ここが一番疑うべき前提でしょう。

確かに職場は、同僚、上司、部下、顧客と接触する場所です。

しかし、接触している=つながっているではありません。

同じオフィスに50人いても孤独な人はいます。

逆に一人で働いていても、私生活に強い人間関係を持つ人もいます。


何が書かれていないか

書かれていないこと1.会社は孤独対策を「出社命令」に利用しないか

個人的には、ここを私は一番警戒しています。

今回の記事を経営側が都合よく読むと、リモート勤務はメンタルヘルスに悪いらしい、だから週5日出社にしよう、となる可能性があります。

しかしこれはかなり危険です。

以前の記事解剖室では、

「会社へ出社させることはできても、社員を働かせることはできない」と考えました。

会社へ出社させることはできても、社員を働かせることはできない?完全出社で「静かな退職」が起きる理由
完全出社を命じれば社員は職場に戻せます。しかし、出社そのものが意欲や生産性を高めるとは限りません。強制出社が「静かな退職」や離職につながる理由を、社員心理と組織運営の両面から考えます。

完全出社を強制したことで、社員が静かな退職や転職へ向かう可能性を扱っています。

今回なら、孤独対策→完全出社 という政策によって、

通勤時間増加、自由度低下、社員満足度低下、離職。

こんな順序で発生する可能性があります。

つまり、メンタルヘルス改善のための制度が、別の種類のストレスを増やす可能性があります。


書かれていないこと2.「一人」と「孤独」は同じではない

ここは区別した方がいいでしょう。

私もそうなんですが、一人でいることを好む人もいます。

静かな環境で集中したい人もいます。

つまり、一人でいる時間と孤独を感じることは別なんです。

問題になるのは、自分の望む以上に社会的接触がない状態でしょう。

リモートワーク最大の弱点は、本人が何もしなくても得られていた社会的接触まで消えてしまうところにあります。

会社なら偶然発生していたものを、自分で設計しなければならなくなります。


書かれていないこと3.会社の同僚だけが人間関係ではない

ここはかなり大事です。

出社回帰論では、人間には交流が必要、だから会社へ来るべきという議論になりがちです。

しかし、なぜ交流相手が会社員でなければならないのでしょうか。

家族、友人、恋人、近所の人、趣味仲間、地域活動、スポーツ、行きつけの店。

人間関係はいくらでもあります。

むしろ今回の記事に出てくる「第3の場所」という発想は、会社以外にも社会的つながりを作れることを示しています。

ここから少し大胆に考えると、

リモートワークによって会社中心だった人間関係が、会社+家庭+地域+趣味へ分散する可能性もあります。

それは必ずしも悪いことではありません。


書かれていないこと4.会社が社員の孤独まで責任を持つべきなのか

難しい問題です。

企業が、社員が孤独にならないように配慮することは良いでしょう。

しかし、社員の社会生活まで会社が用意するとなると話は少し違います。

会社には、安全な労働環境、過剰なストレスを避ける制度、相談できる仕組みを用意する責任があります。

しかし、友人を作る、趣味を見つける、地域との関係を作る。

こういったところまですべて企業に委ねると、今度は社員の人生が会社中心になりすぎます。

むしろリモートワークには、仕事以外の人間関係を作る余地を増やすという方向もあるはずです。


書かれていないこと5.出社していても孤独になる組織には何が欠けているのか

これは企業にとって非常に重要でしょう。

社員100人が毎日出社している。

しかし、質問できない、雑談できない、失敗すると責められる、競争が激しい、上司から監視されている。

これでは、社会的接触はあっても心理的には孤独です。

今回の記事中の専門家が強調しているのも「自分が認識され、大切にされ、理解されていると感じられるか」です。

つまり問題は、何人と同じ部屋にいるかではない。

その人たちとの関係がどのようなものかです。


書かれていないこと6.リモートワークによる社会的コストは、誰が管理するのか

ここは今後かなり重要になると思います。

会社勤務では、仕事の場所、人間関係、生活リズム、移動、が半ばセットになっていました。

リモートワークでは、それらが分解されます。

仕事だけ自宅へ移動。

すると、通勤は消える。

しかし同時に、雑談、昼食、挨拶、偶然の出会いも消えます。

これは、リモートワークが悪いのではなく、「会社に付属していた社会機能」を誰かが代替しなければならないという問題なのかもしれません。


記事の有効な部分は何か

この記事にはかなり重要な点があります。

①リモートワークの欠点を正面から扱っている

リモートワーク支持側では、

通勤削減、集中、柔軟性ばかり語られがちです。

しかし、孤独、人間関係、社会的接触という、支払わなければならない代償コストもあります。

大規模データによってそこを示したのは価値があります。


②それでも「完全出社」に飛びついていない

ここがこの記事の一番良いところでしょう。

以前の記事解剖室でも、「リモートワーク廃止で生産性は上がるのか?」を扱いました。

リモートワーク廃止で生産性は上がるのか?企業が「出社=成果」と考える落とし穴
社員を会社に戻せば、本当に生産性は上がるのでしょうか。出社率、会議、コミュニケーションが増えても、成果が増えたとは限りません。リモートワーク廃止の効果を研究データから検証し、企業が「管理しやすさ」を「生産性」と取り違える構造を解剖します。

そこで考えたのは、出社=成果ではないという問題でした。

今回なら、出社=社会的充足でもないとなります。

これは非常に重要です。


③個人差を考えている

独居者ほど影響が大きい。

ここから、全員同じ制度ではなく、状況によって最適な働き方が違うという発想が出てきます。

これは企業制度としても重要でしょう。


別の立場から見るとどうなるか

一人暮らしのフルリモート社員から見る

今回最も注意すべき層です。

仕事の効率だけなら在宅が最高。

しかし、

月曜日。

誰とも会わない。

火曜日。

誰とも会わない。

水曜日。

オンライン会議だけ。

こういう生活が続けば、本人が思っている以上に心理状態へ影響する可能性があります。

こういう人には、週1~2日出社、コワーキングスペース、趣味、友人との予定などを意図的に組み込む価値がありそうです。


家族と暮らす社員から見る

事情はかなり違います。

家庭内で毎日社会的接触があります。

同じフルリモートでも、孤独リスクは低くなる可能性があります。

だから、フルリモートは禁止という一律政策は合理性を欠きます。


経営者から見る

今回の研究は出社回帰の根拠にしたくなるでしょう。

しかし使い方を間違えると危険です。

社員:リモートだと集中できます。

会社:研究では孤独になるそうです。健康のため週5日出社です。

こんな感じにしてしまうと、社員からすれば、

本当に私の健康を心配しているのか。

となります。

以前の記事解剖室で扱った「完全出社で静かな退職」が再発する可能性があります。


若手社員から見る

ここはさらに重要です。

記事解剖室では最近、「リモートワークのデメリットとは?若手が育たない世代間格差」を扱いました。

リモートワークのデメリットとは?若手が育たない「世代間格差」を考える
自分は先輩から仕事を教わったのに、後輩を育てる時は在宅勤務?リモートワークで若手の学習機会が減る理由と、新人教育・OJTに生まれる「世代間格差」を考察します。

そこでは、リモートワークによって偶発的な質問や観察機会が減り、特に経験の少ない若手が不利になる可能性を考えました。

今回の研究を重ねると若手は、技能形成だけでなく人間関係形成でも影響を受ける可能性があります。

新人:仕事が分からない。人間関係もない。一人暮らし。フルリモート。

となれば、かなり孤立しやすい。

だから新人については、ある程度意図的に接触機会を作る合理性があります。

ただしそれは、全社員週5日出社とは別問題です。


記事解剖室の結論

今回の記事を単純化すれば、

リモートワークは孤独になりやすいので、会社へ行きましょう。

になります。

しかし記事解剖室としては、この結論にはなりませんね。

元研究自体、リモート可能職で孤立や心理的苦痛が増え、とくに一人暮らしで影響が強いという重要な問題を示しています。

これは無視すべきではありません。

しかし、リモートワークが孤立を増やすから全員オフィスへ戻せ。

こうするにはは、大きな飛躍があります。

なぜなら、出社することと、人とつながることは同じではないからです。

これはこれまで記事解剖室で考えてきた、

会社へ出社させることはできても、社員を働かせることはできない。

という問題と非常によく似ています。

今回なら、会社へ出社させることはできても、社員を孤独ではなくすることはできないとなります。

同じ場所にいる。

それだけでは足りません。

話せる、相談できる、理解される、必要とされる、自分がそこにいてよいと思える。

そうした関係が存在して初めて、社会的接触は意味を持ちます。

逆に言えば、自宅で働いていても、家族、友人、恋人、地域、趣味、コワーキングスペースと十分につながっていれば、必ずしも孤立するとは限りません。

だから本当に設計すべきなのは勤務場所ではなく、「孤立しない働き方」ではないでしょうか。

例えば、一人暮らしの新人、経験豊富で家族と暮らすベテラン。

子育て中の社員、一人で集中して成果を出せる技術者。

人と話すことで調子が上がる営業職、全員に同じ勤務制度が最適とは考えにくい。

会社がやるべきなのは、月曜日から金曜日まで来てくださいという場所の統一ではなく、

この社員には、どの程度の集中と、どの程度の交流が必要なのか。

を考えることかもしれません。

ここで、以前の記事解剖室の「リモートワーク廃止で生産性は上がるのか?」ともつながります。

そこで問題になったのは出社した社員の姿が見えることを、生産性と勘違いしてはいけないという点でした。

今回はさらに、人が同じ場所に集まっていることを、社会的つながりと勘違いしてはいけないとなります。

会社には社員が100人いる。

全員出社した、席も埋まっている、昼休みには社員食堂も混んでいる。

これだけを見ると、活気のある職場だと思えるでしょう。

しかし、その100人が、誰にも相談できない、失敗を恐れている、互いを競争相手としか見ていない、上司から監視されていると感じている。

なら、100人で孤独になっているだけです。

逆に、一人で自宅にいても、信頼できる同僚がいる、毎日少し雑談する、困った時に相談できる、仕事の後に友人と会う、週に何度か地域や趣味の集まりへ行く。

こういう人なら、社会的にはかなり豊かです。

つまり、一人で働くことと、孤独であることを区別する必要があります。

今回の記事から企業が学ぶべきことは、リモートワークを廃止せよ、ではありません。

もっと難しい問いです。

「働き方が自由になった時代に、これまで会社へ行けば勝手に発生していた人とのつながりを、どう意図的に作り直すのか?」

これはリモートワークが社会へ突きつけた、意外に大きな問題だと思います。

通勤をなくすことはできました、オフィスをなくすこともできます、オンライン会議で仕事もできます。

しかし、その効率化の過程で、

挨拶、雑談、昼食、立ち話、誰かがそばにいる感覚。

こういったものまで一緒に削減してしまったのだとすれば、次に必要なのは「人間関係まで効率化して消さない仕組み」ではないでしょうか。

そして企業が最終的に目指すべきなのは、完全出社でも完全リモートでもなく、仕事に必要な集中と、人間に必要なつながりの両方を失わない働き方なのだと思います。

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