リモートワークをめぐる議論では、よくこんな構図が語られます。
「若い世代は会社に来たがらない」「Z世代は在宅勤務を好む」「若者は対面コミュニケーションを嫌う」
ところが、今回取り上げる記事は、このイメージをかなりひっくり返します。

英国のデータを見ると、むしろハイブリッド勤務をしている割合が高いのは若者ではありません。
英国ONSの2025年1~3月の調査では、
- 16~29歳……19%
- 30~49歳……36%
- 50~69歳……24%
がハイブリッド勤務でした。
つまり最も多いのは30~49歳なんです。
さらに年収5万ポンド以上の労働者では45%がハイブリッド勤務をしているのに対し、2万ポンド未満では8%。
管理職・専門職ほど在宅勤務を利用しやすいという傾向もあります。
そしてCentre for Citiesのロンドン調査では、18~24歳は週平均3.1日オフィスへ出ているのに対し、35~44歳は2.5日程度でした。
若者が会社から逃げているというより、
すでにキャリアを築き、仕事のやり方を覚え、人脈も持っている中堅・管理職ほどオフィスへ来なくなっている。
そんな構図が見えてきます。
すると、少し妙なことが起きます。
40代の管理職は20代のころ、先輩の仕事を横で見た、会議の後で説明してもらった。
昼食を一緒に食べた、隣の席から電話対応を聞いた、失敗して怒られた、分からないことをその場で聞いた。
そうやって会社の中で育ってきた。
ところが自分が40代になって後輩を育てる立場になった時には「今日は在宅勤務です」となる。
これは単純なリモートワークの是非とは少し違う問題です。
今回考えたいのは、
上の世代は対面環境による育成利益を受け取ったのに、下の世代へ同じ育成機会を渡さなくてもよいのか?
という、リモートワークに潜む「世代間格差」です。
- 記事は何を主張しているか
- 筆者は誰に向けて書いているか
- 読者に何をさせたいか
- どんな前提を置いているか
- 何が書かれていないか
- 記事の有効な部分は何か
- 別の立場から見るとどうなるか
- 「AI時代、会社は誰が人材を育てるのか?」とつなげるとかなり怖い
- 会社の「自然育成モデル」が壊れ始めているのではないか
- では「新人がいる日は管理職も出社」にすればいいのか
- しかし、もっと重要なのは「育成を仕事として評価すること
- 完全出社へ戻せば解決するわけでもない
- 会社は「出社日」ではなく「学習日」を設計するべきなのかもしれない
- 最大の問題は「上の世代が受け取ったもの」を認識していないことかもしれない
- これは「経験者だけ採ればいい」と同じ構造
- ただし若者側にも将来同じ問題が返ってくる
- 記事解剖室の結論――リモートワークの問題は「どこで働くか」ではなく「誰が次の世代を育てるか」
記事は何を主張しているか
元記事の中心的な主張はかなり明快です。
リモートワークによってオフィスが空洞化している主因を若者だけに求めるのは間違いであり、
むしろ中堅・高所得・管理職層がハイブリッド勤務の大きな受益者になっている。
そして、その結果として最も不利益を受ける可能性があるのが、これから仕事を覚える若い社員だ、というものです。
英国ONSの数字でも、30~49歳は若者よりハイブリッド勤務率が高くなっています。
さらに管理職・専門職、高所得者ほどハイブリッド勤務を利用しやすい。
理由も理解できます。
中堅社員は
- 通勤時間が長い
- 郊外へ住んでいる
- 子育てがある
- 自宅の仕事環境が整っている
- すでに社内人脈を持っている
- 仕事のやり方を知っている
- 上司から細かな指導を受ける必要が少ない
からです。
つまり中堅社員にとって在宅勤務は、かなり合理的です。
問題は、その合理性が新人にも成立するとは限らないことです。
新人には、「仕事そのもの」だけではなく「仕事のやり方を覚える」という別の仕事があります。
先輩が取引先へどう電話するか、上司がどこで判断を変えるか、トラブルが起きた時、誰に相談するか、会議で誰が本当の決定権を持っているか、資料のどこを上司が気にするか。
こうしたものはマニュアルだけでは伝わりません。
元記事はここを問題視しています。
中堅社員にとって、
オフィスへ行く追加的な利益は小さい。
しかし新人にとっては、
オフィスへ行く追加的な利益がまだ大きい。
つまり同じ「出社一日」でも、世代によって価値が違うわけです。
筆者は誰に向けて書いているか
主な読者は三つ考えられます。
第一は経営者・管理職です。
特に、「若者が会社へ来ないから育たない」と思っている管理職に対し、
そもそも教える側のあなたたちは会社へ来ているのか?
と問い返す構造になっています。
第二は中堅以上のホワイトカラーです。
リモートワークによって、通勤時間削減。
育児との両立、静かな環境、生活の自由度といった恩恵を享受している層です。
この記事は暗に、
あなた自身は若いころ対面環境からかなりのものを受け取っていなかったか?
と問いかけています。
第三は政策担当者です。
英国では柔軟な働き方を求める権利が強化されており、企業がそれを拒否する場合にも合理的な理由が求められる方向へ制度が進んでいます。
ただし、ここは注意が必要です。
英国の制度は「在宅勤務する絶対的権利」を与えているわけではなく、柔軟な勤務を要求する権利です。
このあたりは元記事の政治的な論調をそのまま受け取らず、分けて考えた方がよいでしょう。
英語の記事ですので、日本の制度や会社とはどうしても違いが出てきてしまいますしね……その辺りも含めて考察出来れば良いんですが、今のところはこの辺が現在の私が、AIを使っても出来る考察限界でしょうか。
読者に何をさせたいか
表面的には、もっとオフィスへ戻るべきではないか、という記事に見えます。
しかし、もう少し深く読むと「全員週5日出社」を単純に求めているわけではありません。
本当に問題にしているのは、経験者の働きやすさを最大化した結果、新人の育成コストを無視していないかということです。
これはかなり重要な問いです。
例えば、
ベテラン社員A
月曜日 在宅
火曜日 出社
水曜日 在宅
木曜日 出社
金曜日 在宅
新人社員B
月曜日 出社
火曜日 出社
水曜日 出社
木曜日 出社
金曜日 出社
だったとします。
会社は、「新人はちゃんと週5日会社に来ているから問題ない」と考えるかもしれません。
しかし、教える人がいなければ意味がありません。
新人をオフィスへ座らせることと、新人を育てることは同じではないからです。
これは以前の記事、『会社へ出社させることはできても、社員を働かせることはできない?完全出社で「静かな退職」が起きる理由』ともよく似ています。

そこで考えたのは出社させることと、生産性を上げることは同じではない、という問題でした。
今回なら出社させることと、育成することも同じではないとなります。
新人だけ会社へ来させても先輩が自宅にいるなら、新人は会社のデスクからTeamsで先輩へ質問することになります。
それなら、「何のために会社へ来たのだろう?」となっても不思議ではありません。
どんな前提を置いているか
ここはかなり慎重に見る必要があります。
元記事には、いくつか強い前提があります。
前提① 対面勤務の方が新人を育てやすい
これは一定の説得力があります。
新人教育では、質問する、観察する、雑談する、相談する、他人のトラブル対応を見る、会議前後のやり取りを聞く。
こういった非公式な学習が重要です。
リモート環境では、「質問する」ためにもTeamsやSlackで意識的に相手を呼び出さなければなりません。
対面なら「ちょっといいですか?」で済むわけです。
特に新人の場合、こんな簡単なことを質問していいのだろうか? という心理的な障壁があります。
結果として、小さな質問ほど消える可能性があります。
そして実は、この小さな質問の蓄積が新人育成には重要です。
前提② 中堅社員は対面で育てられた
これも現在40代前後の労働者には概ね当てはまりやすいでしょう。
コロナ禍以前、週5日出社が一般的だった企業では、現在の管理職層は若いころ、物理的に先輩社員の近くで働いていました。
つまり、対面環境という教育インフラを使って経験者になった世代です。
この点から今回のタイトルにある、「自分は会社で育ててもらった。でも後輩を育てる時は在宅勤務?」という矛盾が生まれます。
前提③ オフィスへ行けば育成される
しかし、これは怪しい。
会社へ毎日行っていても、誰も教えない、質問すると嫌な顔をされる、「見て覚えろ」と言われる、管理職が会議ばかりしている、新人教育が評価されない。
これでは、人は育ちません。
つまり、対面勤務は育成の必要条件になる場合はあっても、十分条件ではありません。
ここは元記事が少し美化している部分でしょう。
昔のオフィスが本当に「ベテラン社員が若手へ知恵を惜しみなく伝える学習空間」だったかというと、そんな会社ばかりでもなかったでしょう。
前提④ 英国の生産性低迷は在宅勤務と関係している
ここはさらに注意が必要です。
元記事では、英国とフランスなどの生産性を比較し、在宅勤務との関係を示唆しています。
しかし国全体の労働生産性には、
- 産業構造
- 設備投資
- IT投資
- エネルギー価格
- 人材教育
- 資本装備率
- 企業規模
- 労働市場制度
など大量の要因があります。
「英国は在宅勤務が多い」「英国の生産性が低い」という二つの事実から、
在宅勤務のせいで生産性が低い。
とは言えません。
ここは元記事の中でも、かなり慎重に読むべき部分でしょう。
何が書かれていないか
ここからが記事解剖室として重要です。
元記事があまり扱っていない問題があります。
① なぜ中堅社員は会社へ来たくないのか
記事は、「中堅社員が在宅勤務して若手が困っている」という構図を強調します。
しかし、中堅社員にも事情があります。
通勤往復2時間、子どもの送迎、親の介護、高騰した交通費、集中できないオフィス、意味の薄い会議。
これらを抱えている人に、後輩育成のため週5日出社してください、と言えば「それは会社の教育制度の不足を自分の通勤時間で埋めろということか?」という反論も当然出ます。
ここはかなり重要です。
新人育成は会社の責任であり、先輩社員の善意だけで成立させるべきではありません。
② 育成する人に何の見返りがあるのか
これは「記事解剖室」で何度も扱ってきた問題です。
以前、『人事評価はなぜ社員の行動を歪めるのか?』では、
売上、生産量、契約数などは測りやすい一方、
- 後輩育成
- トラブル予防
- 知識共有
- 他部署支援
などは数字にしにくいため、過小評価されやすいと考えました。
例えば、このようなパターンがあったと仮定します。
先輩A
在宅勤務で自分の仕事100。
先輩B
週3日出社して新人を教え、自分の仕事80+新人育成。
会社が個人成果しか見なければ、
Aの方が高評価になります。
これではBが損です。
そうなると合理的な社員は後輩を育てない方向へ動きます。
つまり今回の問題は、リモートワーク問題であると同時に、人事評価問題でもあります。
記事の有効な部分は何か
この記事が非常に良いと思うのは、リモートワークを世代間の利益配分として見たことです。
これまで在宅勤務の議論は、会社対社員、経営者対労働者、出社派対リモート派、という対立で語られがちでした。
しかし実際には、社員同士でも利害が違います。
例えば中堅社員なら、在宅勤務の利益は大きい、通勤不要。
自宅環境あり、仕事内容理解済み、社内人脈あり、上司との信頼関係あり。
一方、新人は通勤不要という利益は同じでも、失うものがあります。
先輩を観察する機会、偶然の会話、質問機会、人脈形成、会社固有の暗黙知。
つまり同じリモートワーク制度でも、キャリアの段階によって損得が違う。
この視点はかなり重要です。
別の立場から見るとどうなるか
ここでは立場を変えてみます。
若手社員から見る
若手からすれば、かなり理不尽です。
40代管理職:「若いうちは会社へ来て学ぶべきだ」
若手:「誰から?」
管理職:「先輩社員から」
若手:「その先輩は?」
管理職:「今日は在宅」
となったら、さすがに納得できないでしょう。
さらに、「俺たちの若いころは、先輩を見て仕事を覚えた」と言われれば「では、その環境をこちらにも用意してほしい」という話になります。
これはかなり正当な要求です。
中堅社員から見る
しかし中堅社員にも言い分があります。
中堅社員は若いころ、満員電車、長時間残業、飲み会、サービス残業、転勤。
など、現在なら見直されている働き方も経験しています。
だから、昔自分が経験したから、若者にも同じ環境を与えるべきだ、とも限りません。
さらに、自分の仕事をこなし、部下を管理し、後輩を教育し、家庭も維持し、さらに育成のため出社しろ、では負担が集中します。
『誰も管理職になりたがらない会社は、最終的にどうなるのか?』でも考えましたが、管理職になりたい人が減っているのに、残った管理職へ
評価、育成、調整、トラブル処理、出社。
こういった事柄まで全部背負わせれば、さらに管理職の魅力を下げます。

つまり、若手育成のために中堅社員へ負担を追加するだけでは問題は解決しません。
経営者から見る
経営側はさらに難しい判断になります。
フルリモートなら、オフィス費削減、採用範囲拡大、社員満足向上、離職抑制。
こういう利点があります。
CIPDの2025年調査でも、61%の雇用主が柔軟な働き方を求人時に提示することは、人材獲得や人手不足への対応上重要だと答えています。
一方でBritish Chambers of Commerceの2025年調査では、リモート・ハイブリッド勤務が生産性を下げたと答えた企業が41%、高めたと答えた企業が17%でした。
ただし企業間の差も大きく、B2Bサービスでは肯定的な企業も比較的多い。
つまり、リモートが正解でも、出社が正解でもありません。
業務内容によって変わります。
そして今回もう一つ加える必要があるのが、その制度で新人を5年後の中堅社員まで育てられるのかという長期指標です。
今日の生産性だけでは足りません。
「AI時代、会社は誰が人材を育てるのか?」とつなげるとかなり怖い
ここで今回の記事と、『AI時代、会社は誰が人材を育てるのか?』を組み合わせてみます。

以前の記事では、会社にはもともと新人を経験者へ変換する機能があると考えました。
新人が、簡単な調査、資料作成、データ整理、簡単な顧客対応などをしながら徐々に難しい仕事を覚える。
ところがAIは、この「新人向けの簡単な仕事」を先に代替する可能性があります。
すると、新人が仕事を通して自然に学ぶ教材が減る。
今回のリモートワーク問題では、新人が仕事を教えてくれる先輩を見る機会が減る。
さらに、『誰も管理職になりたがらない会社は、最終的にどうなるのか?』では、新人を育てる管理職そのものが減る可能性を考えました。

三つを組み合わせると、
AI導入→新人向け仕事が減る→リモートワーク→先輩を観察する機会が減る→管理職不足→教育する時間も減る→新人が育ちにくくなる→中堅不足→管理職候補不足
上記のような負の循環ができます、これは結構怖い。
会社の「自然育成モデル」が壊れ始めているのではないか
ここまで考えると、問題の本質が少し違って見えてきます。
昔の会社は、新人を採用し、会社へ毎日来させ、簡単な仕事を任せ、先輩の近くへ座らせ、失敗させ、先輩に修正させる。
これを繰り返すことで、人材を育ててきました。
つまり、仕事をしていれば自然に人が育つ構造がありました。
かなり雑な教育システムですが、それなりに機能していました。
しかし現在はこの環境が壊れつつあるのかもしれません。
AIが簡単な仕事を処理する、リモートワークで先輩と離れる、中途採用中心になる、転職が増える、管理職になりたい人が減る、成果主義で教育が評価されない。
これらが同時進行しています。
すると、仕事をしていれば勝手に人が育つという前提そのものが崩れます。
これは、リモートワークだけの問題ではありません。
では「新人がいる日は管理職も出社」にすればいいのか
一つの解決策は単純です。
新人教育が必要な日は、新人だけではなく、指導担当者も出社する。
例えば、月・火・木、チーム全体で出社。
水・金、リモート可。
こんな形です。
重要なのは、個人単位ではなくチーム単位でハイブリッド勤務を設計することです。
新人A 月曜出社。
先輩B 火曜出社。
課長C 水曜出社。
では意味がありません。
オフィスへ行ったのに、
Teams会議ばかりしているという、かなり奇妙な状況になります。
しかし、もっと重要なのは「育成を仕事として評価すること
さらに必要なのが、育成担当者への評価です。
新人を育てるため、週2日余分に出社し、質問に答え、資料を添削し、会議後に説明した、失敗をフォローした。
その結果、自分の個人成果が10%落ちた。
それを、「今年は成果が落ちましたね」と評価してはいけません。
それでは誰も教えなくなります。
むしろ、人を育てること自体を成果として扱う必要があります。
これは直前に考察した成果主義の問題とも完全につながります。
成果主義では、測りやすい個人成果ばかり見ると、新人教育のような数字になりにくい仕事が損になります。
その結果、成果主義+リモートワークが組み合わさると、自宅で自分の仕事だけした方が評価も高く、生活も楽という非常に強いインセンティブができます。
そうなった社員に「もっと若手を育てる責任感を持て」と言っても無理があります。
制度が逆方向を向いているからです。
完全出社へ戻せば解決するわけでもない
だからといって、
よし、明日から週5日全員出社。
では雑すぎます。
記事解剖室では、
『会社へ出社させることはできても、社員を働かせることはできない?完全出社で「静かな退職」が起きる理由』
でも考えました。
完全出社によって、離職。
採用競争力低下、従業員満足低下、管理職負担増加。
こういった事柄が起きれば、結局組織能力が落ちる可能性があります。
実際CIPDの調査では、柔軟性の欠如を理由に仕事を辞めた社員も存在します。
つまり、若手育成を理由に全員の柔軟性を奪えばいいわけではありません。
必要なのは、全員出社か、全員リモートかという二択ではありません。
会社は「出社日」ではなく「学習日」を設計するべきなのかもしれない
ここまで考えると、もっと違う発想ができます。
出社日を、会社へ来る日ではなく、他人から学ぶ日として設計する。
例えば、新人と指導社員を同じ日に集める、1on1をまとめる、顧客対応を横で見せる、レビューを対面で行う、重要な会議へ新人も参加させる、成功事例だけでなく失敗事例を共有する、昼食時間も一部交流へ使う。
逆に、資料作成、集中作業、分析などは自宅で行う。
こうすれば、オフィスの役割そのものが変わります。
昔は、仕事をする場所=オフィスでした。
これからは一人でできる仕事は自宅、他人から学ぶ仕事はオフィスという役割分担も可能です。
これはリモートワークを否定するどころか、むしろハイブリッド勤務を成熟させる方向でしょう。
最大の問題は「上の世代が受け取ったもの」を認識していないことかもしれない
今回の記事で、私が一番面白いと思うのはここです。
経験者は自分の能力を「自分の努力で身につけた」と思いやすい点。
もちろん努力もしています。
しかし、隣の席にいた先輩、質問に答えてくれた上司、失敗を修正した同僚、仕事を任せた管理職、顧客を紹介した先輩、飲み会や雑談で教えてくれた人。
そうした大量の他人の時間が、自分の能力の中に埋め込まれています。
つまり経験者の能力には、過去の会社が負担した教育費が含まれています。
ところが経験者になった後で、自分は一人で仕事ができるから在宅でいい、となる。
本人だけを見れば正しい。
でも組織全体から見ると、自分を育てるためには他人の時間を使ったが、自分が他人を育てる段階ではその時間を出さないという構造にもなり得ます。
これを私は今回、リモートワークの世代間格差と呼びたいと思います。
これは「経験者だけ採ればいい」と同じ構造
ここで『AI時代、会社は誰が人材を育てるのか?』で考えたフリーライダー問題ともつながります。
会社A:「新人を育てるのは高コストだから、経験者だけ採用しよう」
会社B:「うちも」
会社C:「うちも」
全企業がこれをやったら、経験者を誰が作るのでしょうか。
同様に、
社員A:「自分はもう仕事を覚えたので在宅」
社員B:「自分も」
社員C:「自分も」
となったら、新人を誰が育てるのでしょうか。
一人の経験者が在宅勤務することは合理的です。
しかし全経験者が同じ行動をすれば、組織の教育機能が弱ります。
またしても、個人合理性と組織合理性が一致しません。
これは記事解剖室で何度も出てきた構図です。
ただし若者側にも将来同じ問題が返ってくる
これは現在の40代だけを批判すればいい問題でもありません。
現在20代の社員がリモート環境でキャリアを積み、10年後、30代になった時、
自分はもう一人で仕事できるから在宅がいい。
と言う可能性があります。
その時、その下に新しい20代が入ってきます。
つまりこれは、「悪い中年対かわいそうな若者」という話ではありません。
放っておけば、世代が入れ替わるたび繰り返す構造問題です。
だから会社側が制度として解決する必要があります。
記事解剖室の結論――リモートワークの問題は「どこで働くか」ではなく「誰が次の世代を育てるか」
今回の記事を、「やっぱりリモートワークは駄目だ」という結論にするのは簡単です。
しかし、それでは問題をかなり取り違えると思います。
リモートワークには明確なメリットがあります。
通勤時間削減、育児との両立、採用範囲拡大、集中作業、生活の自由度。
これらを捨てて2019年へ戻る必要はありません。
一方で、新人育成に対面環境が持っていた機能まで「古い働き方」として捨てていいのかという問題があります。
現在の中堅・管理職の多くは、毎日会社へ行き、先輩社員の仕事を見て、失敗して、質問し、叱られ、助けてもらい、そうやって経験者になりました。
その経験者が、
「自分はもう一人で仕事ができるので、自宅の方が生産性が高い」
と言う……言う事そのものは正しい。
しかし新人からすれば、
「あなたが一人で仕事できるようになるまで、誰かがあなたを育てたのでは?」
という話になります。
ここにリモートワークの「世代間格差」があります。
ただし、その解決を経験者個人の善意へ押し付けるのも間違いです。
会社が、育成日を設計する、新人と先輩の出社日を合わせる、後輩育成を評価する、対面でしか得にくい経験を意図的に作る。
AIで失われる新人向け仕事には別の教材を用意する。
そうやって、これまで仕事の中に偶然埋め込まれていた育成機能を、意図的に再設計する必要があります。
以前、『AI時代、会社は誰が人材を育てるのか?』で、AIによって従来型の新人育成ラインが壊れるなら、「仕事を残す」のではなく、「修業方法を作り直す」必要があると考えました。
リモートワークでも同じなのだと思います。
昔の週5日出社をそのまま復活させる必要はない。
しかし、昔の週5日出社の中に何が埋め込まれていたのかは、一度分解して考えなければならない。
そこには、雑談、観察、質問、相談、人脈形成、先輩の失敗を見ること、会議後の解説など「業務」として数字には出ない大量の教育がありました。
それらまで消してしまった後で10年後に、
「最近の若手は育っていない」
と言うのは少し違うでしょう。
もしかすると若手が育たなくなったのではありません。
会社が、人を育てていた仕組みを少しずつ撤去している可能性があります。
AIが新人の仕事を奪う、成果主義が教育を評価しない、管理職不足で教える時間がなくなる、そしてリモートワークによって、先輩そのものが隣の席からいなくなる。
一つ一つは合理的です、しかし全部を足した時、
では、未来の経験者はいったいどこで作るのか?
という巨大な穴が開きます。
今回の記事が投げかけている本当に重要な問いは「出社か、在宅か」ではないのでしょう。
自分たちが受け取った育成機会を、次の世代へどのような形で渡すのか。
こちらの方だと思います。
会社がこの問いに答えないまま働き方だけを効率化していけば、
2026年には「在宅勤務の方が効率的」と言い、2031年には「若手が育たない」と言い、2036年には「経験者が採れない」と言う。
そんな未来になっても、それほど不思議ではありません。
そしてその時になって初めて、会社は気づくでしょう。
人材育成とは、新人だけのために行っていたコストではなく、10年後の会社を作るための投資だったのだと。
追記
AIが出力した文章を訂正、補正しながら読んだ私の感想があるので、追記という形で。
会社は氷河期世代で『10年後の会社を作るための投資』だと判断せずに、あの世代の採用を抑制しましたが、その結果が現状です。
歴史は繰り返す……AI風に言うなら、『似たような形で螺旋を刻む』と表現するでしょうか。
AIがこういう文章を出してきている時点で、私個人としては、10年後の人材育成という観点では危険信号がすでに灯っているのではないか、と疑っています……


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