私が勤務している会社では、早番をする者が、トラックなどで運搬されてきたドラム缶等の充填容器を受け入れることになっています。
で、つい先日のことですが……その早番をした際に、ドラム缶を運んできたドライバーさんを見て私はギョッとしてしまいました。
一目見て外国の方だとわかる、立派な体格の黒人さんだったのです。
頭の中で、ぐっどもーにんぐ、いや違う、ないすとぅみーちゅー、いやそれも違う(-_-;)
何て話しかければいいのか、そもそも英語圏の方なのか、どうやってコミュニケーションを取ればいいんだ、と一秒ぐらい固まっていると、
『スイマセン、ドラム缶運んできました』めちゃくちゃ流暢な日本語を話してくれたおかげで、私の硬直は解けましたとさ(´∀`)
こんな感じで、外国人労働者を見かけることは、もはや珍しいことではなくなったと思います。
コンビニ行っても海外の方が会計されていることも多々ありますし。
厚生労働省によると、2025年10月末時点の外国人労働者数は約257万人。前年から約27万人増え、届出制度が始まった2007年以降で過去最多を更新しています。外国人を雇用している事業所も約37万か所に達しました。
企業が外国人を雇う最大の理由も明確です。
2025年の外国人雇用実態調査では、外国人を雇用する理由として68.2%の事業所が「労働力不足の解消・緩和」を挙げています。
つまり、「外国人も働いている会社」から、「外国人がいなければ業務そのものが成立しない会社」へ変わりつつある企業が、日本には少しずつ増えているということです。
外国人労働者を受け入れること自体が悪いという話ではありません。
問題は、その状態が5年、10年と続いたとき、会社の行動まで変わらないだろうか、という点です。
今回は「外国人労働者なしでは回らない会社が増えた先に何が起きるのか?」を考えてみます。
一般にはどう理解されているか
一般的には、少子高齢化で日本人労働者が減っているのだから、外国人に働いてもらう必要があるという説明になります。
これは基本的にはその通りでしょう。
日本人の生産年齢人口は減っています。
特に、介護、建設、農業、外食、宿泊、食品製造、物流など、人手が必要なのに機械化しにくい仕事では、人材確保が難しくなっています。
政府もこの方向へ制度を広げています。
特定技能制度の対象は拡大され、さらに技能実習制度に代わる「育成就労制度」も導入されます。
現在の政府方針では、2028年度末までの特定技能1号と育成就労の受入れ見込みは合計約123万人とされています。
したがって、日本人が減る→人手不足になる→外国人労働者を増やす
上記の流れは自然なものに見えます。
ただ、ここで一つ疑問が出てきます。
それは、外国人労働者が不足分を埋めてくれるなら、企業は人手不足を解決するための別の方法を、以前ほど急いで探さなくなる可能性はないかという、かなり深刻な疑問です。
当事者Aから見るとなぜ合理的なのか
まず企業側から見てみます。
例えば食品工場で100人必要だとします。
しかし日本人を募集しても90人しか集まりません。
企業にはいくつか選択肢があります。
給料を上げる、設備を自動化する、仕事を減らす、商品価格を上げる、工場を縮小する、外国人を10人採用する。
この中で外国人採用が最も早く、安定して人数を確保できる手段なら、企業が選ぶのは合理的です。
特に中小企業では、自動化設備へ数億円を投資するより、人を採用する方が現実的な場合もあります。
また、外国人だから必ず安く雇える、という単純な話でもありません。
日本では外国人労働者にも最低賃金など日本人と同じ労働法令が適用されますし、特定技能などでは日本人と同等以上の報酬も求められます。
それでも企業が外国人を採用する最大の理由が「労働力不足」なのは、厚労省の調査でも明確です。
つまり企業側から見れば日本人か外国人かではなく、「働いてくれる人が必要」という非常に現実的な問題です。
以前、記事解剖室で「人手不足なのに、なぜ会社は給料を上げないのか?」を考察しました。

そこでは、
給料を大幅に上げる→既存社員の給与体系まで見直す必要が出る→固定費が恒久的に増える
このような事情から、企業が賃上げ以外の方法を探す合理性を考えました。
その有力な答えの一つが、外国人労働者の採用ということになります。
当事者Bから見ると何が違うのか
では外国人労働者側から見るとどうでしょう。
日本側からすると「人が足りないから来てもらう」という話ですが、外国人側からすると日本は多数ある就労先候補の一つにすぎません。
ここを忘れると大きな間違いをしてしまいます(……AIではなく、個人的な回答としては、すでにそこそこの間違いをしたあとで、さらに大きな間違いをしている最中なのではないか、という疑念が拭えません)
例えばベトナムやインドネシアの若者が海外で働こうと考えた場合、
日本、韓国、台湾、シンガポール、中東、欧州、アメリカなど複数の選択肢があります。
当然、給与、物価、住宅費、母国への送金額、労働時間、外国語の習得コスト、在留資格、転職自由度、差別の有無、家族帯同、永住可能性……
これら以外の条件も、色々と比較します。
つまり、日本企業が外国人を必要としていることと、外国人が日本で働きたいことは同じではありません。
JICAもこの問題をかなり強く警告しています。
JICAの試算では、日本が一定の経済成長を実現しようとした場合、2040年に必要となる外国人労働者は約688万人なのに対し、供給可能人数は約591万人で、約97万人不足する可能性があります。
つまり将来的には、日本企業同士で外国人を取り合うのではなく、日本そのものが韓国・台湾・中国・中東などと人材を取り合うことになります。
ここで立場が逆転します。
これまでは、企業が「外国人を採用してあげる」という感覚だった会社も、将来的には外国人が「どの国、どの会社なら働いてもいいか」を選ぶようになります。
全員が同じ行動をしたらどうなるか
A社が人手不足を外国人採用で補う。
これは合理的です。
B社も同じでC社も同じ。
それどころか介護会社も工場もホテルも外食も建設会社も。
まぁ、全部合理的ですよね。
では全企業が同じことをしたらどうなるでしょう。
当然、外国人労働者そのものが不足します。
次に起きることは、外国人労働者の獲得競争。
A社「月給25万円」
B社「27万円」
C社「住宅無料」
D社「日本語教育付き」
E社「家族帯同支援」
こんな感じの競争になる可能性が出てきます。
これは興味深いところです。
もともと企業が外国人を採用した理由の一つが、「日本人が採れない」だったとすれば、全社が外国人採用へ舵を切った結果、今度は外国人も採れなくなる。
つまり、
日本人不足→外国人採用→全社が外国人採用→外国人不足
こういう第二段階の人手不足が発生します。
これは以前の記事解剖室で考察した、全社が即戦力しか採らなければ、即戦力そのものが生まれなくなるという「人材育成のフリーライダー問題」と非常によく似ています。
一社単位では合理的。
しかし全社がやると成立しません。
一次効果の次に何が起きるか
外国人労働者を増やした最初の効果は非常に単純です。
人手不足が緩和します。
例えば、10人不足→外国人10人採用→シフトが埋まる→残業減少→生産維持
これは明確なメリットです。
問題は第二段階です。
企業側から見ると「人が採れた」という成功体験になります。
すると、賃金体系の見直し、業務削減、不採算商品の廃止、設備自動化、職場環境改善を急ぐ圧力が弱くなる可能性があります。
ここは慎重に考える必要があります。
外国人労働者が増えれば必ず賃金が下がる、という単純な因果関係は研究上も確認されていません。
移民流入による賃金への影響は国や職種によって異なり、実証研究でも一律の賃金低下が起こるわけではありません。
しかし企業レベルでは興味深い研究が出ています。
2026年のRIETI研究では、特定技能外国人や技能実習生を雇用する企業は、もともと労働生産性や日本人従業員の賃金が相対的に低い企業に集中する傾向があり、外国人雇用後も売上高や労働生産性に明確な改善が確認されなかったと報告されています。
これは重要です。
つまり、外国人労働者を採用すれば会社の低生産性問題が解決するとは限らない。
むしろ場合によっては、
人手不足→外国人採用→とりあえず仕事が回る→低生産性構造が温存される
こういうことも考えられます。
その変化に人間はどう適応するか
ここから人間側の適応が始まります。
まず企業。
外国人労働者が長期的に必要だと分かれば、日本語だけのマニュアルをやめるでしょう。
写真や動画を使い、作業を標準化する。
属人業務を減らし、翻訳AIを導入。
住宅支援を行い、外国人管理職を作る……こんな変化が起きるでしょう。
これは悪い変化ではありません。
むしろ、外国人でも働けるように仕事を整理した結果、日本人新人や高齢者にも働きやすくなる可能性があります。
例えば、「ベテランの勘で覚えろ」という職場では外国人教育が非常に難しい。
だから、作業手順、危険ポイント、品質基準、トラブル対応を全部見える化する。
すると新人教育そのものが改善します。
外国人採用が、日本企業の仕事の標準化を強制する可能性があります。
一方で労働者側も適応します。
外国人社員が増えれば、日本人社員の役割が単純作業から、教育、調整、品質管理、設備管理、トラブル対応、チーム管理へ移る可能性があります。
すると職場の階層構造そのものが変わるかもしれません。
反論・例外・この仮説が成立しない条件
ここでは反対方向も考えておく必要があります。
まず「外国人労働者を増やすと、日本人の給料が下がる」という単純な主張は成立しません。
外国人が日本人と競合する場合もありますが、外国人が不足部分を補うことで企業が存続し、その結果として日本人の雇用まで維持される場合もあります。
例えば地方の食品工場。
外国人がいなければ工場閉鎖。
しかし外国人が働くことで工場が維持されれば、管理職、設備保全、物流、原料供給、地元小売など日本人の仕事も残ります。
つまり、外国人雇用=日本人雇用を奪うとは限りません、むしろ補完関係になることも多い。
さらに外国人自身も永遠に「単純労働者」であるわけではありません。
日本語を習得する、資格を取る、管理職になる、会社を作る、永住する、子どもが日本で育つ。
ここまで行けば「外国人労働者」という括り自体が意味を失っていきます。
外国人を単なる一時的な労働力として想定するモデルと日本で生活し、キャリアを築く住民として受け入れるモデルでは、最終的な社会は全く違います。
5~10年続いた場合どうなるか
では2026年から2036年まで、この流れが続いたらどうなるでしょう。
AIの回答では、企業を大きく4種類に分けられるようになる、と指摘されました。
1.外国人依存型企業
大量の外国人労働者を採用し、現在のビジネスモデルを維持する企業。
外食、食品製造、宿泊、介護、農業などで増えるでしょう。
2.外国人定着型企業
外国人を単なる労働力としてではなく、
教育
昇進
住宅
家族
長期雇用
まで含めて受け入れる会社。
外国人採用競争が激しくなれば、こちらの方が強くなる可能性があります。
3.自動化型企業
人材獲得競争を諦め、
ロボット
AI
セルフサービス
無人化
へ進む企業。
4.縮小・撤退型企業
外国人も日本人も採れず、
営業時間短縮
店舗閉鎖
サービス縮小
倒産
へ進む企業。
つまり、外国人労働者の増加によって全企業が救われるわけではありません。
むしろ10年間で「外国人を雇える会社」と「外国人にも選ばれない会社」という格差が広がる可能性があります。
これはかなり重要です。
外国人労働者が不足した場合、彼らも当然、条件の良い企業へ移ります。
給料が高い、残業が少ない、寮がきれい、日本語教育がある、差別されない、昇進できる、転職しやすい。
そういう会社が選ばれる。
すると日本人に選ばれない会社が、外国人なら選んでくれるという発想は長期的には成立しなくなる。
むしろ、日本人にも外国人にも選ばれない会社になる可能性があります。
既存の記事解剖室の考察とどうつながるか
このテーマは、これまでの記事解剖室の記事をかなりきれいにつなげられます。
まず「人手不足なのに、なぜ会社は給料を上げないのか?」
この記事では、賃上げ、省人化、AI、業務縮小、外国人労働者という複数の選択肢があると考察しました。
今回の記事は、その中の「外国人労働者を選んだ場合、その先に何が起きるのか」を掘ったものになります。
次に「人手不足の会社ほど新人教育ができないのはなぜ?」ともつながります。
人手不足になる、教育時間がなくなる、新人が育たない、さらに人手不足になるという悪循環を以前考えました。
外国人を採用した場合も、採用だけして教育能力がなければ同じです。
外国人雇用実態調査でも、企業側の最大の課題は「日本語能力等のためコミュニケーションが取りにくい」で46.2%。さらに生活環境整備や文化・生活習慣の違いも課題になっています。
つまり人さえ連れてくれば解決ではありません。
教える能力がない会社は日本人新人も育てられず、外国人新人も育てられないという可能性が高い……と言うか、普通に考えれば日本人の方が、共通の言語、共通の文化を持っているので育てやすいはずなんですよね、普通に考えれば(-_-;)

そして「AIで新人採用を減らす会社は、将来の経験者をどこから採用するのか?」で考察したフリーライダー問題とも非常によく似ています。
各企業が、新人を育てるより経験者を採る。
日本人の待遇を変えるより外国人を採る。
こういう合理的行動を取ります。
しかし全社が同じ行動をすると、経験者が不足する、外国人も不足するという問題が起きる。
つまり記事解剖室で何度も出てきている、一社にとって合理的な行動が、全社で行われると成立しなくなるという構造が、ここにもあります。

記事解剖室の結論
外国人労働者が増えること自体を、「良い」「悪い」の二択で評価することにはあまり意味がないと思います。
日本では働く人が減っています。
外国人労働者がいなければ、介護施設が維持できない、工場が動かない、建物を建てられない、ホテルを営業できない、農産物を作れない。
こういう地域が実際に増えていくでしょう。
したがって外国人労働者は、日本経済を維持するための重要な存在になります。
しかし問題はその先。
外国人を採用した、人手不足が解消した。
そこで手を止めてしまうと、
「外国人がいるから、このままの会社で大丈夫」
という状態になりかねません。
しかし外国人労働者も無限にはいません。
JICAの推計が示すように、将来的には日本が必要とする人数ほど外国人労働者を確保できない可能性があります。
そうなると、日本人が採れない→外国人を採る→外国人も採れない
……こういう段階がやってきます。
そこで初めて、給料を上げる、仕事を減らす、機械化する、教育を改善する。
外国人が定着できる会社にする。
……これでは十中八九、手遅れになるのでは、と私は危ぶんでいます。
だから外国人労働者を「不足した日本人の代わり」と考えること自体が間違っています。
本当に必要なのは、
日本人でも外国人でも働き続けたいと思える会社へ変えること
ではないでしょうか。
そして、ここには少し皮肉な未来もあります。
外国人を採用したことをきっかけに、作業を標準化し、教育制度を整え、待遇を改善し、住宅を支援し、キャリアパスを作った会社は、結果として日本人にとっても働きやすい会社になっているかもしれません。
逆に、「日本人が来ないから外国人で埋めればいい」と考え続けた会社は、10年後、日本人にも外国人にも選ばれない会社になるかもしれない。
外国人労働者が増えた先に問われるのは、外国人を何人受け入れるかだけではなく、外国人労働者がいなければ回らない会社になったとき、その会社は自分自身を変えるのか。それとも、次の労働力を探し続けるのか。
そこが、この問題の本当の分岐点なのだと思います。


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