コロナ禍をきっかけに、多くのホワイトカラーがリモートワークを経験しました。
通勤時間がなくなった、集中して資料を作れる、会社へ行かなくても、メール、チャット、オンライン会議で仕事が進む。
こうした経験をした社員からすれば【仕事ができているのに、なぜわざわざ会社へ戻らなければならないのか?】という疑問は自然でしょう。
一方、企業側は、
- コミュニケーション
- イノベーション
- 人材育成
- 組織文化
- チームワーク
- 生産性
などを理由として出社を求めます。
さて、ここで疑問なんですが、本当に出社すれば生産性は上がるのでしょうか?
少なくとも現在までの研究を見る限り、
「リモートより出社の方が常に生産性が高い」とはいえません。
中国のTrip.comで1612人を対象に行われたランダム化比較試験では、週2日の在宅勤務を含むハイブリッド勤務によって、業績評価や昇進率、エンジニアのコード生産量に悪化は確認されず、離職率は約3分の1下がりました。実験前には管理職がハイブリッド勤務の生産性を平均マイナス2.6%と予想していましたが、実験後にはプラス1.0%へ認識を修正しています。
また、S&P500企業の出社回帰命令を分析したピッツバーグ大学の研究でも、出社義務化による企業業績や企業価値の改善は確認されず、従業員満足度は低下したと報告されています。
となると、
生産性向上だけが目的なら、なぜ一律の出社回帰が行われるのか?
という疑問が残ります。
私はここに、少なくとも七つの理由が重なっていると考えます。
1.出社には、本当に生産性向上のメリットもある
最初から「出社は無意味」と決めつけるべきではありません。
Gallupの2026年調査を見ると、ハイブリッド勤務者が対面勤務のメリットとして挙げているのは、
- 人間関係の形成
- 上司との対面会話
- 協働
- 同僚との交流
- 経営層との対話
- 組織文化への帰属
- 信頼構築
- 問題解決
- メンタリング
などです。
つまり、一人で処理する仕事だけを考えるなら、在宅勤務でも問題ない。
しかし、人と人との関係そのものが成果を生む仕事では対面に意味があります。
例えば新人教育。新人が「このやり方で合っているのかな?」と思ったとき、隣に先輩がいれば、
「それ、ここだけ直した方がいいよ」
と30秒で済むこともあるでしょう。
一方で完全リモートなら、
- メッセージを書く
- 相手の時間を確認する
- 通話する
- 画面共有する
という手順になるため、一回一回は小さな差でも、年間では大きくなる可能性があります。
したがって、出社には何の生産性メリットもない、という主張も正しくないでしょう。
問題は、そのメリットが週5日全員出社を正当化するほど大きいのかです。
2.「個人生産性」と「組織生産性」は違う
ここは非常に重要です。
社員本人は、「家の方が仕事が進む」と感じているかもしれません。
これは嘘ではないでしょう。
しかし会社が求めているのは、必ずしも個人の処理速度最大化だけではありません。
例えばAさんが在宅勤務で、一日10件処理できた案件を、12件処理できるようになったとしましょう。
個人生産性は20%上昇。しかしその結果、
- 後輩への助言が減った
- 部署間の雑談が減った
- 他チームの状況が分からなくなった
- 新人教育が難しくなった
- アイデア共有が減った
としたら、会社全体では損をしている可能性もあります。
そして、その逆も成立します。
オフィスへ戻して、Aさん自身の処理量が12件から10件へ落ちたとしましょう。
しかし、Aさんが周囲へ知識を共有することで、10人が1件ずつ多く仕事を処理できるようになった。
ならば組織全体ではプラスに成り得ます。
つまり、自分は家の方が生産的と、会社は出社の方が生産的は両立する可能性があります。
結構ややこしいのですが、この区別なしに、出社とリモートのどちらが生産的なのかと議論しはじめてしまうと、答えが出なくなってしまいます。
3.しかし「生産性」という言葉は広すぎる
ここから疑り深い私らしく疑ってみましょう(´∀`)
そもそも、企業が「生産性向上のために出社してください」と言ったとき、何をもって生産性としているのでしょうか?
- 売上
- 利益
- 処理件数
- 会議速度
- アイデア数
- 新人育成
- 離職率
- 顧客満足
- 組織文化
……天邪鬼な私は、全部違うと答えます。
以前の記事解剖室では、「成果主義なら『働いているフリ』はなくなるのか?」で、
時間評価では「忙しそうなフリ」が起き、成果評価では「成果を出しているフリ」が起こり得る
と考察しました。つまり、何を成果として測るか自体が難しい問題なんです。

出社回帰でも同じです。
企業が、出社するとコミュニケーションが増えると言っても、コミュニケーション量が増えることと、生産性が上がることはイコールにはならないんです。
会議が増えただけ、雑談が増えただけ。
反対に、一見無駄な雑談から重要な情報が広がる場合も有り得るでしょう。
つまり、出社によって増えるものを「生産性」とまとめてしまっている可能性があります。
4.企業が欲しいのは「生産性」より「観測可能性」なのではないか
私は、出社回帰を理解するうえで、この視点がかなり重要だと思います。
管理職にとって、オフィスにいる社員は見えます。
- 席にいる
- 電話している
- 会議している
- 忙しそう
- 困っていそう
- 周囲と相談している
一方、在宅勤務では見えません。
午後2時、Slackはオンライン。
しかし、本当に仕事をしているのか?
管理職には完全には分かりません。
成果を正確に測れる仕事なら問題ないでしょうが、以前の記事でも扱ったように、企業の仕事には、
- 問題予防
- 他人の支援
- 調整
- 品質維持
- 待機
- 判断
- 育成
など、数値化しにくい仕事が大量にあります。
すると管理職は、成果が測れないなら、せめて働いている姿を見たいとなります。
これは必ずしも悪意ではありません。
管理するための情報が不足しているのです。
ここで以前扱った「働いているフリ」の問題が戻ってきます。
記事解剖室の最初の記事では、時間やオンライン状態など外見を評価すると、社員は本当の生産性を高めるのではなく、評価される外見を作るようになる可能性を考察しました。
出社回帰には、
リモートでは社員が働いているか分からない→出社させる→働いている姿が見える
という構造があります。
でも、見えることと、生産的であることは違いますよね。
ここはかなり重要です。
5.出社回帰は「管理職の仕事を簡単にする」側面もある
これは少し踏み込んだ仮説ですが、リモートワークでは管理職側の能力がかなり問われます。
部下が見えない以上、
- 仕事を明確に定義する
- 期限を決める
- 成果を評価する
- 情報共有を設計する
- 文章で指示する
- 部下の状況を意図的に確認する
必要があります。
言い換えれば、「席にいるから働いている」では管理できません、成果管理が必要です。
しかし以前の記事で考察したように、成果そのものを適切に評価するのは非常に難しい。
そこで、全員会社へ来てもらうと管理は少し簡単になります。
遅刻、出勤、退勤、会議参加、上司への報告。
これらは観察できます。
つまり出社回帰には、社員の生産性を上げるだけではなく、管理職から見た「管理可能性」を上げるというメリットがあります。
ここは「生産性」という言葉の裏に隠れやすい部分でしょう。
6.企業は「偶発的な情報交換」を欲しがっている
ただし、管理のためだけと考えるのも不公平です。
リモートワークでは、用件がある相手とだけ話す傾向が強くなります。
メールもSlackもTeamsも、「誰に何を伝えるか」を意識して使います。
しかしオフィスでは、
「そういえば昨日○○社からこんな話があったよ」
という雑談を隣の人が聞く。
別部署の社員と廊下で会う。
休憩中に、「それならうちの部署で似た問題あったよ」という情報が入る。
これは非常に測定しにくい。
しかし組織にとって価値がある可能性があります。
Gallupでも、ハイブリッド勤務者が対面勤務の主要メリットとして、人間関係、対面会話、協働、信頼構築を挙げています。
だから、出社=監視、というだけでは説明できません。
むしろリモートワークは既知の人との仕事には強いが、新しい関係や偶発的接点には弱い
という問題があります。
7.特に新人には出社の価値が高い可能性がある
これも、全社員一律の議論を避けるために重要です。
経験20年の社員と、新卒1年目では必要な環境が違います。
経験豊富な社員なら、
- 仕事内容を理解している
- 人脈がある
- 誰へ聞けばよいか分かる
- 会社文化を理解している
ので、リモートでも動けるでしょう。
ですが新人は違います。
そもそも、何が分からないのか分からないことも新人なら有り得ます。
Ericsson Swedenの2016~2025年の人事データを分析した2025年研究では、パンデミック期にリモートで入社した社員は、その後出社へ戻った後も最初の3年間で離職しやすく、研究者は組織への帰属感やメンタリング不足を一因として検討しています。
つまり、新人週5出社と、熟練社員週5出社を同じ制度として扱う合理性は必ずしもありません。
むしろ、仕事の性質と経験年数で必要出社日数を変える方が論理的です。
8.ではなぜ「全員一律」で戻したがるのか
ここで再び疑問です。
新人教育が理由なら、新人と教育担当者を多く出社させればよいでしょう。
共同作業が理由なら、チーム会議の日に集めればよいとなりますし、アイデア創出が理由なら、ブレインストーミングの日に集めればよいでしょう。
それなのに、月~金まで全員出社とする企業がある……なぜでしょう?
一つの理由は、個別最適な制度は管理が面倒だからでしょう。
Aさん週1、Bさん週3、新人週4。
プロジェクトCは火曜集合、営業は顧客に合わせる……となると、非常に複雑です。
それなら全員週3、あるいは全員週5の方が圧倒的に管理しやすい。
つまり、最も生産的な制度と、最も運用しやすい制度は違う可能性があります。
9.リモートワークは「会社の統制力」を弱める
これもかなり大きな問題だと思います。
リモートワークを経験した社員は、仕事は会社へ行かなくてもできると知りました。
すると、
- 何時に働くか
- どこで働くか
- どんな服装で働くか
- 休憩をいつ取るか
について、社員側の裁量が増えます。
これは以前扱った「キャリアミニマリズム」と非常に似ています。
Gallupの2026年時点の米国データでは、リモート可能職の52%がハイブリッド、26%が完全リモートで、完全出社は22%です。またリモート可能職の約6割がハイブリッドを希望し、完全出社を希望する割合は1割未満です。
つまりリモートワークは単なる福利厚生ではなく、仕事の場所を誰が決めるのかという権限の問題でもあります。
会社側:勤務場所は会社が決める。
社員側:成果を出しているなら自分で選ばせてほしい。
ここには生産性だけでは説明できない、主導権争いがあります。
10.これは「AIで浮いた時間は誰のものか?」と同じ構造である
この点は、これまでの記事解剖室との接続としてかなり面白いです。
以前、AIで仕事が4時間早く終わった。その4時間は会社のものか、社員のものか?

という問題を考えました。
出社回帰も本質的にはよく似ています。
AI問題
誰が「時間」を決めるのか。
リモート問題
誰が「場所」を決めるのか。
どちらも、雇用契約における裁量の所有権の問題です。
会社側は、給与を払っている以上、勤務時間と勤務場所を一定程度決める権利がある。
社員側は、同じ成果を出せるなら、時間と場所についてもっと自由を認めてほしいと考える。
つまり、AI問題=時間の主導権 出社問題=場所の主導権
なのです。
11.出社回帰には「キャリアミニマリズム」への逆風という側面もある
以前取り上げたキャリアミニマリズムでは、
人々は肩書より、自律性や時間、人生全体のコントロールを重視するようになった
という問題を考えました。

リモートワークは、まさにその自律性を増やします。
通勤がなくなれば、一日往復90分なら、週5日で7時間30分、年間200日なら約300時間。
これは会社の給与には通常含まれない時間です。
社員から見れば、リモート勤務=年間数百時間を取り戻す制度にもなります。
だから一度リモート勤務を経験した人に出社を求めることは単なる、オフィスで仕事してください、ではありません。
社員側からすると、一度自分に戻ってきた時間の一部を、もう一度会社へ渡してくださいという要求に見えることがあります。
だから反発が強いのです。
12.優秀な社員ほど出社命令から逃げやすいという逆説
ここには会社側のリスクがあります。
出社義務が嫌なら、社員は辞めることができます。
ただし転職できる能力が必要です。
そのため、辞めてほしくない優秀な社員ほど転職できるという逆説が生まれます。
Microsoft、Apple、SpaceXの出社回帰政策を分析した研究では、RTO導入後に勤続年数が長く、よりシニアな社員ほど流出する傾向が強く、直接競合する大企業へ移る比率も上昇したと報告されています。
つまり出社回帰によって、あまり辞めてほしくない人から辞める可能性があります。
これは以前の記事、なぜ有能な社員ほど能力を隠すのか、ともつながります。

会社が社員への統制を強めた結果、
能力のある社員:では別の会社へ行きます。
となれば、管理は強化されたものの人的資本は弱くなってしまう……皮肉な結果ですね(-_-;)
13.出社回帰を「退職勧奨の代替」として使う可能性もある
ここは慎重に扱う必要があります。
すべての出社命令が人員削減目的だという証拠はありません。
しかし企業側からすると、リストラするほどではないが、人員を少し減らしたいとき、出社義務強化によって自然退職が増える可能性はあります。
特に、
- 遠方へ移住した人
- 育児中の人
- 介護中の人
- リモート前提で入社した人
- 高スキルで転職容易な人
は辞めやすいでしょう。
これは会社側からすると、解雇せずに人員が減るという効果があるので、人員を削減したい時に意図的に出社回帰を促す可能性もゼロではないでしょう。
ただし、流出するのが有能な人材に偏れば会社側にも大きな損失です。
したがって、RTO=ステルスリストラ、と一律に断定するのは危険ですが、RTOに自然減効果があることを経営側が認識している可能性は検討に値します。
14.オフィスという巨大な固定資産の存在
これも、生産性だけでは説明できない理由の一つです。
企業は、
- 本社ビル
- 長期賃貸契約
- 会議室
- 社員食堂
- IT設備
- オフィス家具
などへ巨額の費用を投じています。リモートワークでオフィスが空けば、これだけの費用を払っている施設をなぜ使っていないのか、という問題が出ます。
経営心理として、既に払った費用だから使わなければならないとなれば、それは典型的なサンクコスト的発想です。
本来なら、今後オフィスを維持することに価値があるかを判断すべきなんですが……うーむ(-_-;)
ただし、長期賃貸契約などですぐ縮小できない場合、使わないオフィスにも支払い続けるという現実的問題があります。
したがって出社回帰の一部には、生産性だけでなく、既存の物理インフラをどう扱うかという事情も入っているでしょう。
15.「文化」は便利だが測りにくい言葉である
出社回帰で頻繁に登場する言葉の一つが、企業文化ではないでしょうか?
確かに文化は重要で、先輩の振る舞いを見る、雑談する、困っている人を助ける、暗黙のルールを理解する……これはオンラインだけでは完全には伝わりません。
ただし、「企業文化のため」という説明には注意も必要です。
文化、という言葉は非常に定義化するのが難しい……そのため、なぜ週5日なのか? なぜ週3日では駄目なのか? なぜチームごとに違ってはいけないのか? という質問に、
企業文化のためです
と答えれば、それ以上検証しにくくなります。
つまり「文化」は、本当に重要な経営資産であると同時に、説明しにくい経営判断を正当化しやすい言葉でもあります。
この二面性をちゃんと見る必要があります。
16.実は「完全リモートか完全出社か」という二択自体がおかしい
はい、天邪鬼な私が一番最初に大きな疑問を感じたのがコレ。
そもそも完全リモートか完全出社の二択なのがおかしい、と私は思うんですが貴方はどうですか? 段階踏んだり、部分的に採用するのはどうしてダメなの? と思った次第。
現在のデータを見ると、この点はかなり重要です。
米国でリモート可能な仕事をしている人の2026年5月時点の勤務形態は、
- 完全リモート 26%
- ハイブリッド 52%
- 完全出社 22%
です。
つまり最も一般的なのは、どちらかではなく、ハイブリッドなんですよね。
さらにTrip.comの実験でも、週5日在宅ではなく、週2日在宅+週3日出社が研究対象。
その結果、業績悪化なし、離職率約3分の1減という結果でした。
このことからすると、出社とリモートのどちらが正しいかという論争そのものが、少し雑なのかもしれません。
本当の問いは、どの仕事を、誰が、どの頻度で、どこでやるのが最も合理的かなんじゃないのか、と私は感じています。
17.出社日に一人でオンライン会議をしているなら制度設計がおかしい
これはハイブリッド勤務でありがちな矛盾です。
会社:火・水・木は出社してください。
社員:出社しました。
↓
午前10時:Zoom会議。
↓
午後1時:Teams会議。
↓
午後3時:Slackでやり取り。
↓
午後5時:帰宅
これでは、何のために会社へ行ったのか? となります。
出社の価値が、
- 対面交流
- 信頼形成
- 教育
- 協働
にあるなら、出社日には出社することでしかできない仕事に集中させるべきです、文字通り時間の無駄。
Gallupでも、ハイブリッド勤務者の出社メリットとして上位に来るのは、人間関係、対面会話、協働、信頼形成などです。
つまり、出社させること自体が目的ではありません。
出社する価値を作ることが会社側の仕事です。
18.「見える社員」を評価する問題が再び起こる
ここで以前の「働いているフリ」へ戻ります。
リモートと出社が混在すると、オフィスにいる人の方が上司から見えやすいという問題が起こります。
会話する、質問される、会議後に少し話す、何かを手伝う。
これらが積み重なると、出社する人の方が熱心に見える可能性があります。
一方、家で成果を出している社員は、その過程が見えません。
すると評価制度が、成果ではなく可視性へ引っ張られます。
これは最初の記事で扱った「働いているフリ」と非常によく似ています。
時間評価では、長く働いているように見える。
出社評価では、会社へ来て熱心に働いているように見える。
成果評価では、数字を出しているように見える。
結局、組織は常に、測りやすいものを本当の価値と取り違える危険があります。
19.だから経営者が出社を求めること自体が間違いなのではない
ここまで批判的に見ましたが、出社回帰=悪
という結論にはしたくありません。
経営者側にも合理性があります。
完全リモートでは、
- 新人育成
- 暗黙知共有
- 組織文化
- 部署間連携
- 信頼形成
- 偶発的交流
が難しくなる場合があります。
Gallupのデータでも、ハイブリッド勤務者自身が、対面には明確なメリットがあると認めています。
また2025年に68社のソフトウェア企業等を調査した研究では、85%が何らかのハイブリッド勤務を認めており、最も一般的なのは週3日出社でした。
つまり実際の企業も、「完全リモート」か「完全出社」ではなく試行錯誤を続けています。
重要なのは、出社させるかどうかではなく、なぜ出社させるのかを説明できるかだと思います。
20.「月曜日だから出社」より「この仕事だから出社」が合理的
これが一つの結論になります。
例えば、
在宅向き
- 集中して資料作成
- プログラミング
- 個人分析
- 定型処理
- 文書作成
出社向き
- 新人教育
- 難しい調整
- ブレインストーミング
- チーム形成
- 顧客対応
- 複雑な意思決定
と分ける。
そして、水曜日だから会社へ来るではなく、今日は対面で行う価値の高い仕事があるから会社へ来るとする。
これなら社員にも説明しやすいでしょう。
21.AI時代になるほど、出社の意味はむしろ変わる可能性がある
これは直近の記事群との接続として面白いところです。
「AIは仕事を楽にするのか、それとも『楽な仕事』だけを奪うのか?」では、AIによって、
- 定型処理
- 資料作成
- 情報整理
が減り、人間には、
- 難しい判断
- 例外処理
- 対人調整
- 最終責任
が残る可能性を考えました。

面白いことに、AIが苦手で人間に残る仕事と出社の価値が高い仕事には重なる部分があります。
対人調整、信頼形成、新人教育、難しい意思決定、創造的議論。
つまりAIが進歩するほど、単純作業をするために会社へ行く必要は減るのではないでしょうか。
しかし逆に、人間同士でしかできない仕事をするために集まる価値は残る可能性があります。
将来のオフィスは、毎日8時間作業する場所ではなく、人間同士でしかできない仕事をするための場所になるのかもしれません。
22.そう考えると「週5出社」はむしろ古い可能性がある
AIが、
- メール
- 資料
- 検索
- データ整理
- 定型処理
を担当し、社員が自宅で集中して処理できる仕事も増える。
その一方で週に1~3回、
- 重要会議
- 教育
- 交渉
- 意思決定
- アイデア創出
のために集まる。
この形なら、リモートか出社かではなく、仕事を場所別に最適化する発想になります。
Trip.comのランダム化試験で週2日在宅のハイブリッド勤務が業績を悪化させず離職を減らしたことも、この中間形の可能性を示しています。
23.企業が本当に恐れているのは「社員が家にいること」ではないのかもしれない
もう一段深読みしてみましょう。
会社が本当に恐れているものは、リモートワーク
そのものではなく、会社が社員の時間・場所・キャリアを決める力が弱くなることなのかもしれません。
言うなれば、人事権の一部を手放さねければいけないように、会社側は感じ取っているのかもしれません。
これまでの記事解剖室では、キャリアミニマリズム、副業、AIによる時間短縮、能力隠し、AIリストラについて考えてきました。
ここへ出社問題を加えると、
- 時間 → AIで浮いた時間は誰のものか
- 能力 → 有能な社員の能力は誰のために使うのか
- 成果 → 何を評価するのか
- 場所 → どこで働くかを誰が決めるのか
- キャリア → 会社と個人のどちらが主導するのか
となります。
つまりシリーズ全体の底にあるのは、会社と個人の「主導権の再配分」になってくるのかもしれません。
結論:出社回帰の本当の問題は「出社かリモートか」ではなく、会社は何を得ようとしているのか
「出社回帰は本当に生産性のためなのか?」
答えは、一部は間違いなく生産性のため。しかし、それだけでは説明できないになると思います。
出社には、
- 新人教育
- 信頼形成
- 偶発的情報共有
- チームワーク
- 問題解決
- 組織文化
という動かし難い価値があります。
Gallupの調査でも、ハイブリッド勤務者自身がこれらを対面勤務のメリットとして認識しています。
一方で、ハイブリッド勤務をランダム化して検証した研究では、業績や昇進への悪影響は確認されず、離職は約3分の1減りました。
RTO命令を導入した企業を調べた研究でも、企業業績改善が確認されないケースや、シニア人材の流出が観察されています。
したがって、「出社させれば生産性が上がる」という万能則は成立しません。
では、企業が出社を求める理由は何か。
おそらく、生産性+育成+協働+組織文化+管理しやすさ+社員の可視性+会社側の統制力
……ズラズラと+が書き連ねることになってしまいましたが、これら複合的に混ざっています。
そして問題なのは、そのすべてを「生産性向上のため」という一つの言葉で説明しようとしていること。
これでは説明不足にも程がある(-_-;)
社員からすれば、家でも成果は出ています、という反論になります。
企業側からすれば、成果だけでは組織は維持できません、となります。
どちらにも一理あります。
だから出社回帰で本当に問うべきなのは、
「家と会社のどちらが生産的か?」
ではないのでしょう。
むしろ、「この仕事は、なぜこの場所で行う必要があるのか?」です。
資料を作るためなら自宅でもいい、新人を育てるなら集まる、難しい問題を議論するなら集まる、一人で集中するなら離れる。
このように仕事ごとに場所を選ぶ方が、単純な週5出社や完全リモートより合理的なんじゃないでしょうか?
そして企業側が、「会社へ来てください」と求めるのであれば、その次に、「来ることで何の価値が生まれるのか」を説明する責任があります。
もし答えが、顔が見えるから、会社だから、昔からそうしていたから……こういった回答だけであれば、それは生産性の議論ではありません。
反対に、この日は新人教育をする、この日は部署間調整をする、この日は意思決定をする。
だから集まる。
これなら、出社には明確な意味が出てきます。
AI時代には、この違いがさらに重要になると思います。
AIが一人でできる仕事を増やすほど、
オフィスへ行く理由は「作業をするため」から「人間と仕事をするため」へ変わる。
のかもしれません。
そう考えると、出社回帰の本当の成功条件は、何日出社させたかではありません。
出社した日に、社員が「今日は会社へ来た意味があった」と思える仕事を企業が設計できるか。
そこなのではないでしょうか。


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