出社回帰はなぜ進む?Disneyがリモート社員に週4日出社を求める理由

記事解剖

Business Insiderが2026年9月14日に報じたところによれば、Disneyは、一部のリモート勤務を続けていたプロダクト・テクノロジー部門の社員に対し、週4日のオフィス勤務を求めることになりました。

Disney wants more remote employees back at the office
Disney is making some remote employees return to the office four days per week as part of a renewed in-person work push.

ここで最初に注意しておきたいのは、Disneyが突然「完全リモートを廃止して全社員を週5日出社にした」というニュースではないということです。

Disneyではすでに多くの社員が週4日出社しており、一部のテクノロジー部門などに例外が残っていました。今回の措置は、Business Insiderの取材によれば、大規模な方針転換というより、その例外を減らし既存ルールを徹底する動きだとされています。

一見すると小さな制度変更です。

しかし、これまで記事解剖室で考えてきた、

  • 出社回帰
  • 静かな退職
  • 人事評価
  • 「働いているフリ」
  • 管理職の管理可能性
  • リモートワークによる世代間格差

というテーマを重ねると、かなり面白い構造が見えてきます。

今回のDisneyのニュースは、「出社した方が生産性が高いのか?」という問題だけではありません。

むしろ巨大企業はなぜ、成果が出ているかどうかとは別に、働き方の「例外」を消したくなるのかという問題ではないでしょうか。


記事は何を主張しているか

記事の表面的な内容は非常にシンプルです。

Disneyが、これまでリモート勤務を認められていた一部のプロダクト・テクノロジー部門社員についても、原則として週4日オフィスへ出社するよう求め始めた。

Disneyでは以前から週4日出社が基本ですが、一部チームには例外がありました。

そして今回、その例外が縮小されます。

さらに重要なのがルール違反は解雇理由になり得るという点です。

ところが実際の運用について社員は、厳格に週4日を確認する上司もいれば、比較的緩い上司もいるとBusiness Insiderに話しています。

つまり会社としては同じルールを掲げている。

しかし現場では、

A部署では週4日必須
B部署では多少欠けても問題なし

こういう状態が存在している可能性があります。

そして記事は、この出社強化を単独の出来事としてだけではなく、Josh D’Amaro CEOの下で進められている「One Disney」の流れにも配置しています。

Disneyは業務やチームをより統合しようとしており、2026年にはレイオフやESPNの組織再編も実施しています。

すると今回のRTOは「出社した方が仕事ができるから」だけでは説明し切れません。

むしろ、組織を統合する→働き方も統一する→例外を減らす

という「One Disney」の一部として見ることもできます。


筆者は誰に向けて書いているか

この記事を書いたJames Faris氏は、Business InsiderでDisney、Paramount、Netflixなど、メディア・エンターテインメント企業の事業やストリーミング、AI戦略などを担当する記者です。

したがって、今回の記事も「リモートワークは良いか悪いか」という一般論を書くというより、

Disneyという巨大メディア企業で、経営方針がどちらへ動いているのかを知らせるニュース記事として読む方が自然でしょう。

想定読者としては、

第一にDisneyやメディア業界の社員。

第二に、テクノロジー・メディア企業で働くホワイトカラー。

第三に、大企業の組織改革やJosh D’Amaro体制のDisneyを追っているビジネス読者。

このあたりではないでしょうか。

特にDisney社員に近い立場の人間なら、

「これまで自分の部署だけ認められていた例外も、いずれなくなるのではないか?」

という情報として読む可能性があります。


読者に何をさせたいか

ニュース記事なので、明確に「Disneyは間違っている」「リモートワークを守るべきだ」と読者を誘導する記事ではありません。

むしろDisneyでもRTOの例外縮小が始まったという変化を認識させることが第一でしょう。

さらにNBCUniversalでは多くの社員について週4日出社、Paramount Skydanceでは原則週5日という動きも記事中で紹介されています。

つまり読者には、

Disneyだけで起きている特殊な出来事ではなく、メディア業界全体でオフィス回帰が続いている

という文脈も提示しています。

ただし記事解剖室として見るなら、その先を考える必要があります。

社員側からすれば「今認められている働き方が、将来も保証されるとは限らない」という意味になります。

会社側から見れば逆です。

「一部の社員だけ例外勤務を続けさせることに、組織運営上のコストはないのか?」という問いになります。

ここで双方の利害がぶつかります。


どんな前提を置いているか

前提1.同じ会社なら働き方もある程度統一した方がよい

今回Disneyがやっていることを最も単純化すれば、

「他の社員が週4日来ているのだから、あなたたちも来てください」

一見すると公平です。

しかし、本当にそうでしょうか?

仕事内容が違うなら、勤務場所まで同じである必要があるのでしょうか?

以前の記事解剖室「出社回帰は本当に生産性のためなのか?」では、

一人で処理する仕事では在宅勤務にメリットがある一方、人間関係形成、教育、協働などでは対面に意味がある

という整理をしました。

出社回帰は本当に生産性のためなのか?
なぜ企業はリモートワークから出社へ戻そうとするのか。生産性だけでは説明できない管理・評価・育成・コミュニケーションの問題から、出社回帰の本当の理由を考えます。

Disneyのプロダクト・テクノロジー部門も、すべての仕事が同じ性質ではないでしょう。

ならば、同じ会社だから同じ出社日数という公平性と、仕事の性質に応じて働き方を変えるという合理性は、必ずしも一致しません。


前提2.オフィスへ戻せば組織統合が進む

「One Disney」という方向性を考えると、これはかなり重要だと思います。

部署を再編し、業務フローを統合し、組織の壁を低くしようとしている時期なら、

同じ場所で働いてもらいたい

という経営側の発想は理解できます。

SlackやTeamsでは、基本的に「話す必要のある人」と話します。

しかしオフィスでは、

隣のチームの会話が聞こえる。

休憩中に別部署の人間と会う。

上司が部下の状況を見る。

偶然情報が伝わる。

以前の記事解剖室でも、出社にはこうした偶発的な情報交換の価値がある可能性を指摘しました。

巨大企業を「One Disney」としてまとめ直そうとするなら、会社側にとっては一定の合理性があります。

ただし、出社させれば本当に統合が進むことまでは、今回の記事では検証されていません。


前提3.出社日数は管理できる指標である

これは記事解剖室で以前考察した「観測可能性」と非常に強く結びつきます。

社員の本当の貢献度を測るのは難しい。

アイデア、問題予防、他人への助言、品質維持、将来のリスク回避などは、数字にしにくいからです。

しかし、今日会社へ来たか? なら簡単に測定できます。

以前「出社回帰は本当に生産性のためなのか?」で、企業が欲しいのは生産性だけではなく「観測可能性」なのではないかと考察しました。

今回のDisneyにも同じ構造を見ることができます。

「成果を出してください」は測定が難しい。

しかし、「週4日出社してください」なら測定できる。

だから経営ルールとして非常に運用しやすい。


何が書かれていないか

ここが今回の記事で一番面白いところです。

書かれていないこと1.なぜ週4日なのか

週5日でもない、週3日でもない、週4日。

では、なぜ4日なら最適なのか? という根拠は記事には示されていません。

Disneyに限った話ではありませんが、RTO議論ではしばしば、

「週○日出社」

というルールが先に存在します。

しかし仕事は曜日単位で性質が変わるとは限りません。

企画会議の日は出社、集中作業の日は在宅、新人教育がある日は出社、という方が合理的な仕事もあるでしょう。

記事解剖室で以前「完全リモートか完全出社かという二択自体がおかしい」と考察した問題が、ここでも戻ってきます。


書かれていないこと2.リモート社員の業績は悪かったのか

ここは非常に重要です。

今回、例外扱いだった社員を出社させるとのことですが、その社員たちの成果が低かった、とは記事には書かれていません。

これは大きな違いです。

業績悪化→出社させる

これなら、かなり分かりやすい。

しかし、業績は特に問題ない→会社全体の方針なので出社させる

これであれば、話は変わってきます。

ここでは個人の成果より、組織全体を統一するメリットが優先されていることになります。


書かれていないこと3.例外をなくすことで何人辞めるのか

これは会社側が当然考えなければならない問題です。

ハイブリッド勤務については、Trip.comで1,612人を対象に行われたランダム化比較試験があります。

週2日在宅+週3日出社を認めたグループでは、業績評価、昇進、エンジニアのコード生産量に有意な悪化が確認されず、離職率は約3分の1低下しました。

もちろん中国のTrip.comの結果を、そのままDisneyへ当てはめることはできません。

しかし少なくとも、働き方の柔軟性には、人材を会社へ留める経済価値が存在する可能性があることは示されています。

ならばDisneyが考えるべきなのは、

出社によって増える価値-退職・採用・通勤負担・社員満足度低下による損失

これでしょう。

ところが今回の記事には、その損得計算は出てきません。


書かれていないこと4.上司によってルール運用が違うことの副作用

私はむしろここが、今回の記事で一番興味深い部分だと思います。

Business Insiderによれば、Disneyの週4日ルールについて、厳格に確認する管理職もいれば、比較的緩く運用する管理職もいると社員は話しています。

となると、同じ会社、同じ職種、同じ能力、同じ成果。

それなのに、上司が違うだけで働き方が違うということが起こるわけです。

これは以前の記事解剖室、「人事評価はなぜ社員の行動を歪めるのか?」ともつながります。

人事評価はなぜ社員の行動を歪めるのか?働いているフリ・成果主義・AI評価から考える
人事評価はなぜ社員の行動を歪めるのか、働いているフリ・成果主義・AI評価から考察しています。

そこで考察したのは、評価制度は社員を測るだけではなく、社員の行動自体を変えるという問題でした。

RTOでも同じことが起こり得ます。

週4日を厳密に数えるなら社員は、成果ではなく「週4日来たこと」を最適化するかもしれません。

会社へ来る、PCを開く、会議に出る、そして会社からオンライン会議をする。

これで出社要件は満たします。

しかし会社が本当に欲しかった、

  • 協働
  • 情報共有
  • アイデア
  • 組織文化
  • 育成

これらが増えるとは限りません。

つまり、出社率をKPIにした瞬間、「出社しているフリ」が生まれる可能性がある。

これは「働いているフリ」とまったく同じ構造です。


記事の有効な部分は何か

今回の記事の価値は、Disneyの出社日数そのものより、RTOが「第二段階」に入っていることを見せている点でしょう。

コロナ直後のRTOは、完全リモート→ハイブリッド という大きな変更でした。

しかし現在起きているのは、

ハイブリッド制度自体はすでにある
↓
部署ごとに例外が残る
↓
例外を減らす

というフェーズです。

しかもDisneyだけではなく、記事はNBCUniversalやParamount Skydanceの出社強化にも触れています。

つまり今後のRTO論争は、「出社かリモートか」から「誰まで例外を認めるか」へ移っていく可能性があります。

これは非常に重要な変化です。


別の立場から見るとどうなるか

経営者から見ると

かなり合理的です。

巨大企業で、部署Aは週4日、部署Bは週2日、社員Cは完全リモート、社員Dは例外。

こうなれば管理は複雑になります。

人事制度も難しくなり、部署異動も難しくなる。

「どうしてあの人だけ?」という不公平感も生まれるでしょう。

One Disneyを掲げて組織を統合するなら、働き方も共通ルールへ寄せたい、という経営判断は理解できます。


管理職から見ると

出社してもらった方が管理は簡単になる可能性があります。

以前の記事解剖室でも書いたように、リモートでは、

仕事を定義する、期限を設定する、成果を確認する、情報共有を設計する、部下の状態を意識して確認する。

これらの管理能力が要求されます。

全員会社へ来れば、その一部は簡単になります。

しかし今回のようにルール運用を管理職へ委ねすぎると、管理職ごとに事実上異なる制度が発生するという別の問題も出てきます。


社員から見ると

かなり違って見えます。

特に重要なのは、リモート勤務も報酬の一部であるという考え方です。

給料700万円+週2日在宅という会社から、給料700万円+週4日出社になった場合、名目給与は変わっていません。

しかし社員側では、通勤時間、交通ストレス、服装、昼食費、育児、介護、居住可能地域などが変わります。

つまり実質的な労働条件は変化しています。

企業から見れば「勤務地ルールを統一しただけ」でも、社員から見れば「報酬パッケージの一部を減らされた」と受け取られる可能性があります。

この認識差はかなり大きいでしょう。


新人から見ると

逆に出社増加にメリットがある可能性があります。

以前の記事解剖室「リモートワークのデメリットとは?若手が育たない世代間格差を考える」では、

新人だけ会社へ来ても、教える側が在宅なら育成効果は弱い

という問題を考察しました。

リモートワークのデメリットとは?若手が育たない「世代間格差」を考える
自分は先輩から仕事を教わったのに、後輩を育てる時は在宅勤務?リモートワークで若手の学習機会が減る理由と、新人教育・OJTに生まれる「世代間格差」を考察します。

ならば、経験豊富なテック社員まで同じ日に出社することで、新人が質問できる、仕事を見ることができる、非公式な知識を得られる。

これらの価値が生まれる可能性はあります。

ここはRTO反対論だけでは見落としやすい部分でしょう。


記事解剖室の結論

今回の記事をそのまま読めば、

Disneyが一部のリモート社員にも週4日の出社を要求するようになった。

というニュースです。

しかし、これまで記事解剖室で考えてきた内容を重ねると、もっと大きな構造が見えてきます。

今回の問題の本質は、「リモートと出社のどちらが優れているか」ではありません。

DisneyはOne Disneyという方向で組織や業務を統合しようとしています。

そのとき、部署ごとの違い、勤務制度の違い、例外社員、管理職ごとの運用差。

こうしたものは組織を複雑にします。

だから、巨大組織は、合理性が多少曖昧でも「例外を消すこと」そのものに価値を感じる。

今回のDisneyのRTOは、その一例として見ることができるのではないでしょうか。

しかし、ここには逆説があります。

会社は例外を減らすことで、管理コストを下げられる。

一方で社員からすれば、自分に合った働き方を失う。

その結果、離職する、最低限しか働かなくなる、出社要件だけ満たす、より柔軟な会社へ移る。

上記の行動が増えれば、会社が例外削減によって節約した管理コスト以上の損失が発生する可能性があります。

記事解剖室で以前、会社へ出社させることはできても、社員を働かせることはできないと考察しました。

会社へ出社させることはできても、社員を働かせることはできない?完全出社で「静かな退職」が起きる理由
完全出社を命じれば社員は職場に戻せます。しかし、出社そのものが意欲や生産性を高めるとは限りません。強制出社が「静かな退職」や離職につながる理由を、社員心理と組織運営の両面から考えます。

今回のDisneyでは、そこからさらに一歩進めてもよさそうです。

会社は働く場所を統一することはできても、社員から同じ反応を引き出すことはできない。

同じ週4日出社でも、新人には教育機会になる。

管理職には管理しやすくなる。

経営者には組織統合になる。

ある社員には大した問題ではない。

別の社員には転職理由になる。

だから本来企業が測るべきなのは、「何%の社員が週4日出社したか」ではないでしょう。

測るべきなのは、出社によって部署間連携は改善したのか、新人は早く育ったのか、アイデアは増えたのか、意思決定は速くなったのか、離職は増えなかったのか、採用力は落ちなかったのか。

そして最終的に、会社全体の価値は増えたのかでしょう。

もしそこを測らず「週4日来ているからRTOは成功した」としてしまうなら、それは以前記事解剖室で考えてきた、「働いているフリ」「成果を出しているフリ」に続く、「出社しているフリ」という新しい評価ゲームを作るだけなのかもしれません。

DisneyのRTOが成功するかどうかを決めるのは、社員をオフィスへ戻せたかではない。

戻した社員によって、Disneyという組織が本当に以前より強くなったのか。

数年後に見るべきなのは、そこではないでしょうか。

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